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「エル・グレコ展」 ドラマチックな宗教画

本日から開催の「エル・グレコ展」を見るため、早速、東京都美術館へ行ってきました。東京都美術館がリニューアル・オープンしてから、私、企画展は皆勤賞ですよ。
 
さて、2014年がエル・グレコの没後400年記念なのだそうです。その前年に日本でエル・グレコの油彩51点を一遍に見られるというのは、なんとも贅沢な話です。今回の展覧会の為に、スペインを中心に、エル・グレコの作品を所蔵している世界中の美術館、教会から作品を集めたのだとか。もぅ~、ご苦労様です。そのかいあって、満足度の高い展示会となっていました。
 
エル・グレコって、初めて実物を見たのも、名前を知ったのも、高校時代の修学旅行で倉敷の大原美術館を訪れた時です。そこには「受胎告知」がありまして、なんだか強烈な絵だな、と思ったのを覚えています。きちんとお土産にポストカードも買ったし、美術館近くの有名な喫茶店エル・グレコ」にも立ち寄って、コーヒーを飲みました。
 
私のエル・グレコ歴はそんなものなのですが、マニエリスムの巨匠なんだよな、とか、「エル・グレコ」って本名じゃなくて「ギリシャ人」という意味なんだよな、という知識くらいしかありませんでした。知識としてはまっさらながら、「なんだかこってりした画風なんだよな」と思っていました。これを機会に一挙にエル・グレコってな気分で見に行きました。
 
今回の回顧展は4つのパートに分けられいます。構成は下記の通りです。
 
Ⅰ-2 肖像画としての聖人像
Ⅰ-3 見えるものと見えないもの
Ⅱ  クレタからイタリア、そしてスペインへ
Ⅲ  トレドでの宗教画 : 説話と祈り
Ⅳ  近代芸術家エル・グレコの祭壇画 : 画家、建築家として
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会場を入ると真っ先にはげ頭に面長でちょっと憂いのあるおじさんの肖像画がお出迎えしてくれます。これが「芸術家の自画像」で、エル・グレコの自画像です。自画像にもきちんとグレコの特徴が出ているのは流石です。エル・グレコは初めに肖像画で人気が出たのだそうです。で、これでもかの肖像画のコーナーです。ここでの私のお気に入りは「修道士オルテンシオ・フェリス・パラビシーノの肖像」と「白貂の毛皮をまとう貴婦人」です。大抵の美術展で肖像画は山の様に見ているのですが、エル・グレコ肖像画って不思議で、すごくエル・グレコ風なんです。何が他の肖像画で人気の画家と違うのか、下手ではないし上手なんだけど、タッチが違うんでしょうか ? 何か違う。肌の色 ? 細く長い手の形 ? 何でしょう ??? でも、この2枚はぐっとくる肖像画です。「白貂の毛皮をまとう貴婦人」は後世のフリーダ・カーロの「自画像」やタマラ・ド・レンピッカの描く女性と似た感じを受けます。視線が強い女性像だからでしょうか。黒い髪、黒い瞳の貴婦人がりんとしている感じがとても素敵で、芯の強さを華やかな白貂の毛皮で覆っているという感じです。出ているのは白い顔と手だけ。印象的な肖像画になっています。
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肖像画としての聖人像」のコーナーで、聖ペテロ、福音書記者聖ヨハネ、聖パウロと3枚並んでいるのですが、このヨハネ、なんだか萩尾望都さんが描きそうなヨハネで、嬉しくなってしまいました。ついでにすごく驚いたのが、聖パウロが先日亡くなった伯父とそっくり。伯父は顔のパーツが大きく痩せていたので、意外や意外、聖人に似ていました。
 
その次の「見えるものと見えないもの」は見所満点のコーナーです。「聖アンナのいる聖家族」「悔悛するマグダラのマリア」「フェリペ2世の栄光」と外せません。個人的には「フェリペ2世の栄光」に描かれる地獄図や煉獄は随分控えめな気がします。北方ルネサンスの画家が描くと、地獄や煉獄のボリュームが多いようなのですが、エル・グレコの作品では天国のボリュームが大きくて、上方はもくもくとした雲の上に楽しそうな天国が描かれます。後で図録で見てみると、天国と地獄のボリュームは同じ位でした。でも実物を見ると、やはり天国の方が大きく感じられる絵なのです。
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次の「クレタからイタリア、そしてスペインへ」というコーナーでは、一人のギリシャ人の画家がいかにしてスペインで巨匠と呼ばれるまでの画家「エル・グレコ」になったかの軌跡を追っていきます。エル・グレコクレタ島に居た時はイコン画家だったんですね。イコンですから、何世紀も前のような画風です。当時、クレタ島ヴェネツィア領だったんだそうです。イコン画家だった青年はヴェネツィアに渡ります。ここでイタリア・ルネサンス、特にヴェネツィア派の画法を学びます。ローマを経てスペインへ。宮廷画家を目指しましたが、為政者であったフェリペ2世に気に入られず、宮廷画家の夢は儚くも破れます。しかし、教会関係や同業者からの評価は高かったようです。彼はトレドをとても愛していたようで、様々な作品にトレドの風景が描きこまれているのもご愛嬌です。
 
このコーナーの最後に「受胎告知」が2枚出展されているのですが、年代の若い方と、すっかりグレコのタッチになってからでは、まるで別人の作品のようです。1600年に描かれた「受胎告知」はエル・グレコらしく縦に細長く見得る構図で、上に立ち上っている様に見えます。左にマリア、右に雲に乗る大天使ガブリエル、上のほうに雲に乗る天使の楽隊が描かれていて、とても賑やかでおめでたい雰囲気です。1576年の作は、もっとシンプルで、左のマリアは戸惑っている感じだし、右側の大天使ガブリエルは薄い雲に乗って宙に浮いています。エル・グレコ的にはかなり控えめな画風ですが、落ち着きます。この「受胎告知」はなかなか味があってなごめます。「受胎告知」というテーマはこの時代のほとんどの画家がイメージ 4
描いているので、色々見比べてみるのも面白いですよね。一人の
画家ですらこんなに違いがあるのですから。
 
「トレドでの宗教画 : 説話と祈り」のコーナーでは、「聖衣剥奪」「羊飼いの礼拝」「オリーブ山のキリスト」「十字架のキリスト」が良かったです。「十字架のキリスト」は同じ作品で制作年度が違うものが次のコーナーにもあるので、見比べてみると面白いです。私は、こちらのコーナーの作品の方が好きです。「オリーブ山のキリスト」は晩年の作品で、もう、こうなると名人芸の域ですよ。画面はコクがあるのに絵の具の塗り具合は以前ほどではないようなのです。それなのにきちんとグレコだと分かる作風。やっぱり巨匠なんですね。「聖衣剥奪」は本物はトレド大聖堂にあるようです。今回のはそれに倣って描いた作品だそうですが、テイストは伝わってきます。ドラマチックな画面構成ですね。キリストの緊迫感と、彼を磔刑にすべく準備が進んでいく中で、民衆の高揚感が感じられます。
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最後のコーナー「近代芸術家エル・グレコの祭壇画 : 画家、建築家として」も見所満載。実際の教会内の祭壇と同じならびに展示された「受胎告知」「聖母戴冠」「キリスト降誕」。見る人の立ち位置を計算して描かれています。エル・グレコの「受胎告知」はマリアが左、天使が右に描かれるのが特徴ですが、ここではマリアが右、天使が左に描かれています。「聖母戴冠」を真ん中にして、「受胎告知」が左翼に、「キリスト降誕」が右翼に設置されているかららしいです。本当は、きちんと本来展示されている所で見ないと、本当の良さは分からないのかもしれません。
 
最後のお部屋にはどど~んと、今回の目玉である「無原罪のお宿り」が鎮座しておりました。いや~、大きい。礼拝堂に飾られていた絵ですから大きいし、下から見上げる位置に設置されているのでしょう。なるほど下から見上げているから、上が小さく下が大きく描かれているわけですね。縦に長く引き伸ばした体は、下から見上げた時、調度よく見えるということでしょうか。とにかくこの絵には圧倒されます。すご~い ! こういう絵はきちんと礼拝堂で下から仰ぎみたいですね~。今回の展示会のキャッチ・コピーが「一度見上げたら、忘れられない。」というのはこういうことでしたか !
 
今回、子供向けのガイドとして所々にパウチされた説明書が設置されていて、大人でも十分役に立ちました。鑑賞ポイントが描かれていイメージ 6るので、その作品への理解を大いに助けてくれます。初日のお昼過ぎに伺いましたが、その段階で結構混んでいました。そして時々子供づれも。後で知ったのですが、18歳未満の子供を連れていると子供は無料、保護者は半額で入れる日だったようです。
 
私は2度ほどぐるっと見て廻って、約2時間で見られました。当初、ほとんどが宗教画だし、くたびれそうだな、と思っていたのですが、意外や意外、胃もたれ感が全くありませんでした。喩えると見た目コッテリしている料理を食べてみたら意外にさっぱりしていた、みたいな感じです。私はエル・グレコを誤解していました。あぁ、スペインへ行きたい ! トレドの教会で、エル・グレコの作品を見上げてみたいものです。
 
この機会ですから、どうぞ、どっぷりと、トレドで「ギリシャ人」と呼ばれていた画家の作品を堪能しに行って下さい。
 
 
上から「白貂の毛皮をまとう貴婦人」。
  「聖アンナのいる聖家族」。
  「受胎告知」1600年頃。
  「受胎告知」1576年頃。
  「聖衣剥奪」。
  「無原罪のお宿り」。