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「人間の絆」 人生とは何か ? と向き合うフィリップの成長物語

世界の名作をおいおい読んでいこうと思っていて、今年は何だかモームづいております。そこで、著者初の長編小説で、自伝的要素が多い作品と言われる「人間の絆」を読みました。文庫本で3冊でした。
 
あらすじ
フィリップは幼くして両親を失い、田舎で牧師をしている伯父夫婦の下で育てられる。伯父夫婦には子供がおらず、幼い子供にどのように接していいか分からず戸惑うが、伯母は不器用ながらも精一杯フィリップを愛してくれる。やがて、紳士を育てるための小学校、中学校に進学するが、えび足の為、なかなか友達ができない。フィリップは成績が良かったので奨学金を得て大学に進むことを勧められるが、奨学金を振って、急遽ドイツに遊学。ドイツで色々な若者と出会い、初めて人生に向かい合っていることを感じる。
帰国したフィリップは弁護士の勧めで会計士事務所に勤めるが1年で辞め、画家になるためにパリに留学。パリでは画家を目指す友人たちと共に、青春を謳歌する。その中で貧しいが美しい詩を書く詩人クロンショーと知り合う。「人生とは ? 」というフィリップの問いに、クロンショーはペルシャ絨毯の切れっ端を送ってきた。答えは自分で探さないと意味がないという言葉を残す。
画家になる夢を諦めたフィリップは、イギリスに戻り、父と同じ医師の道を目指そうと医学生になる。ある日、カフェのウェイトレスのミルドレッドと知り合い、激しく彼女を愛するが、彼女には散々煮え湯を飲まされる。ミルドレッドと別れで勉学に励み、新しく恋人の出来たフィリップの前に、夫に捨てられたミルドレッドが現れる。フィリップはミルドレッドを再び助けるが、ミルドレッドはまたしてもフィリップに対してひどい扱いをして姿を消す。
病院の患者として知りあった陽気な男アセルニーとフィリップは仲良くなり、毎週末アルセニーの家を訪ね、親交を深める。ある日、株で全財産を摩ってしまったフィリップを助けてくれたのもアルセニーで、彼の紹介でデパートで働き始める。やがて、伯父が亡くなり遺産を得て、医学生へ戻り医師免許を取る。
 
 
「世界の名作」というと古めかしくつまらないと思われそうですが、この小説はとにかく面白くてどんどん読めてしまいます。フィリップという一人の青年の幼年期から30歳くらいまでの話で、彼を取り巻く環境がどんどん変わっていきます。それは自分が望んで、ということもあれば、外的要因によってということもあり、かなりシビアな状況に置かれたり、青春を謳歌したり、懐の具合が良かったり悪かったり、だいたい誰の人生にでもありそうなお話が一通り出てきます。
 
もともとのタイトルは「OF HUMAN BONDAGE」といって直訳すると「人間の束縛について」とか「人間の隷属について」というものらしいのですが、先に日本で翻訳されて広く日本で流通しているタイトルが「人間の絆」ということです。最初に翻訳された時代と今とでは、言葉のニュアンスが違うせいか、今ならむしろ「人間の束縛について」の方がしっくりくると思いました。
 
では、何に束縛されているのか ? ひとつには宗教。フィリップは引き取られた先が牧師館だった為、幼少の頃はイヤでもキリスト教にどっぷりの生活ですが、小学校に通っている時に、熱心にお祈りしても願いがかなわないことからキリスト教の信仰を捨てます。それから時代的なこともあり、紳士という階級やそれ以外の人々という階級。紳士がついていい職業は4つくらいしか無い様で、そのことにまず驚きました。医師というのは紳士が着くべきでない仕事という括りなのも驚きです。束縛はまだ色々。人間関係、とくに恋愛。ミルドレッドとの腐れ縁は強烈です。「こんな女やめておけ」と読者はみんな叫んでいると思うのですが、フィリップはミルドレッドに隷属しており、徹底的に痛めつけられます。あぁ、哀れなフィリップ。
 
でも、人生それだけではありません。よき人との出会いも容易されています。詩人のクロンショーや貧しくても子沢山で楽しい家庭を築いているアルセニー夫妻など、ところどころに素敵な人も登場します。私はクロンショーもアルセニー夫妻も大好きな登場人物。人生そう捨てたものではないということです。
 
環境や状況が変わるたびに色々な人が登場し、去っていく。ある者はフィリップに影響を与え、ある者は風のように、ある者はフィリップにはたいした関心も持たず。人はどの時代でも、もがいて生きているんです。自由に生きたいと思う者は、自分の理想と現実の間で調整し諦め、また希望を抱き立ち上がり、打ちのめされ・・・と葛藤しているのです。自分が生きていく道が見えた者は幸いです。とりあえずわき目も振らず突き進めばよいのですから。
 
昔の小説などと思わず、もっと多くの方に読んでいただきたい作品です。私自身、10代で読んでおけばよかったと思っています。現在、10代や20代の若い人たちに是非読んでいただきたい一冊です。