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師匠と弟子と、影響を与えられたり与えたり 「ボッティチェリ展」

今日は東京都美術館で開催中の「ボッティチェリ展」に行きました。
 
構成は以下の通り。
 
第2章 フィリッポ・リッピ、ボッティチェリの師
第3章 サンドロ・ボッティチェリ、人そして芸術家
第4章 フィリッピーノ・リッピ、ボッティチェリの弟子からライバルへ
 
今回の展示会はボッティチェリ展ではあるのですが、リッピ親子に挟まれたサンドイッチ状の人間関係を追っていて興味深い構成になっています。ボッティチェリの師匠は、修道士でありながら修道女を妊娠させた挙句、駆け落ちした画僧のフィリッポ・リッピで、ボッティチェリに多大な影響を与えている師匠だと思います。初期のボッティチェリの作風は師匠のフィリッポ・リッピにそっくり。そして、フィリッポの息子のフィリッピーノはボッティチェリの弟子になるのですが、フィリピーノの初期の作風はボッティチェリと良く似ています。この3人は一つの作風の線上で結ばれているというか、一つのグループに見えます。
 
今回の目玉はボッティチェリの初来日の「書物の聖女」でしょうか。当時のメディチ家の面々、注文主、画家自身も描き込まれた「ラーマ家の当方三博士の礼拝」、「美しきシモネッタの肖像」といったあたりでしょうか。
 
まず最初に人だかり。「ラーマ家の当方三博士の礼拝」があります。この絵は面白いですね。注文主も描かれているのですが、権力者一族の方が良い場所に、三博士として描かれています。どちらかというと聖家族は添え物的な集団肖像画と言っても良いような作品。それでも若々しいマリアは楚々として可愛く美しく、イエスは可愛い赤ちゃんとして、中央奥に描かれています。手前に描かれた、お祝いに駆けつけた人々、つまりこの人々は当時の当世風の人々で、お衣装も派手できらびやかです。聖家族と対照的です。
 
初来日の「書物の聖母」はとにかくうっとりするくらい美しい絵です。ずーっと見ていたい。ソファーにかけて見ていたい。独り占めして見ていたい。今回の展示会での私の一番のお気に入りとなりました。聖母子像は沢山の画家が描いていて、傑作が多々あります。あの画家のもこの画家のも皆いいです。でも、この聖母子像は本当に美しいのです。見ていて飽きない。何がこうまで私の心を捉えたのでしょう ? 深みのあるブルーの衣、左肩の所に金の星の縫い取り、若く美しい聖母、その聖母を見上げる幼子イエス。イエスの左手には苦難を意味する3本の釘と腕には茨の冠が通されていますが、どちらも金色です。安定した構図。画面の大半がマリアの深いブルーの衣です。あまりにも気に入ったので、お土産コーナーで額装用のA4サイズのを買いました。自宅でもうっとりしようと思いまして。
 
「アペレスの誹謗」という絵は、とても興味深く、面白く拝見しました。古代ギリシャの画家が描いたとされる現存しない絵を記述に伴い復元したという作品で、「誹謗」や「真実」「悔悟」などの寓意が登場人物として描かれ、舞台を見るような大きな動きのあるドラマを演じているのです。これは面白い作品で、「真実」は画面の左隅で天を仰いで我関せずのポーズを取っているのも面白い。ボッティチェリもこういうのを描いていたのですね。
 
「美しきシモネッタの肖像」は「ヴィーナスの誕生」や「春」のモデルになったと言われる当時フィレンツェ一の美人だったシモネッタ・ヴェスプッチ肖像画でかなり派手できらびやかなイメージですが、同じモデルでももっと地味な「女性の肖像」の方が、むしろ彼女の美が際立って私は好きです。「美しきシモネッタの肖像」はブロマイド的とでも言いますか、人目を引きますが、「女性の肖像」の方は、描かれている女性の生活者としての存在が感じられます。
 
「バラ園の聖母」もあり、これはかなり初期なのか硬い感じの筆遣いながら、硬質な美しさがあります。
 
ボッティチェリと工房の作品も何枚もありました。こういっては失礼かもしれませんが、ボッティチェリの場合、ボッティチェリ作と「ボッティチェリの工房」、あるいは「ボッティチェリと工房」では作品の出来の良し悪しにあまりにも差が有りすぎるように感じます。この時代は皆、工房を構えて製作していたわけですが、ここまで出来に差があるのもなんだかなぁと思います。正直言って、工房の手が入っているものはあまりぐっと来るものが無く、なんとなくボッティチェリ風にしか見えません。
 
ボッティチェリのイメージは優美な線の絵画、神話や美しい聖母、異教的な作風というものでしょう。今回、サヴォナローラに影響を受けた晩年の作品も展示されています。私は、初めて実物を見ましたが、それまでのボッティチェリの輝きが失われたような地味な作風に変わり、画題も聖書の聖人の苦行を描いたようなものになっています。こういう作風に変わってしまったのを見るのは、興味深いものがありましたが、やはりボッティチェリルネサンスという自由な空気を体現しているような作風が素晴らしいと思いました。
 
素描やダンテの「神曲」の挿絵もあり、線で描かれた絵の巧妙さと繊細さがよく分かります。ボッティチェリのパートだけでもかなり充実しています。
 
さて、最初のコーナーでは師匠のフィリッポ・リッピの作品が展示されているのですが、今回持ってきているのはかなりまじめな感じの作品ばかり。フィレンツェで見たフィリッポ・リッピの作品の多くは美人画かと見まごう程の美人の聖母子ばかりでした。この人はよっぽど女好きだったのかなと思わせるほど、どの聖母子像も美人でした。そしてキラキラと輝いていて、どこか世俗的。まるで現代のイラストの様な作風で、でもとても美しい。そういう作品ばかりを今まで見てきましたが、今回展示されたのは聖書に基づいた真面目な場面の絵だったりして、この人もこういうのを描くんだなとちょっと驚きました。もっとも上手だったから師匠だったわけですし、駆け落ちした後も画家として生計が成り立ったわけですよね。でも、イメージどおりの美人の聖母も展示してほしかったです。その方が、いかに影響を与えたかが分かりやすいと思います。
 
さて、その息子のフィリッピーノ。フィレンツェでは何故か壁画や教会に納められている作品などばかり見ていて、父親に比べると線が太いタイプの画家なのかなくらいに思っていました。今回の展示で、猛烈に気に入ったのが「幼子キリストを礼拝する聖母」と「聖母子、洗礼者ヨハネと天使たち ( コルシーニ家の円形画 ) 」です。「幼子キリストを礼拝する聖母」は美しい絵で、礼拝している聖母の横顔がリンとした美しさを放っています。一緒に手を合わせたくなるような画風です。「聖母子、洗礼者ヨハネと天使たち」はかなりかわいいです。これ、好きっ ! 洗礼者ヨハネは何故か奥の方に。フィリッピーノは「受胎告知の大天使ガブリエル」と「受胎告知の聖母マリア」という絵で突然画風が変わっていて驚きました。
 
トータル75点ほどらしいのですが、とにかく見ごたえがあり満足感のある展示会になっています。これは行って良かったです。お土産コーナーもゆっくり見たいので、余裕を持って出かけられることをお勧めいたします。
 
 
 

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