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ウンベルト・エーコ作「フーコーの振り子」

昨年末から読み始めたら面白くて、しばらく他のことが手に付かないくらい楽しませてくれたウンベルト・エーコの「フーコーの振り子」を紹介します。
 
 
あらすじ
 
1970年代から80年代のミラノ。大学でテンプル騎士団の卒論を書いていたガゾボンは編集者のベルボと知り合う。ベルボは固い学術書の出版をしているガラモン社に勤めていたが、ガラモン社では持ち込まれるオカルト趣味の売れそうもない作品を社主を同じくする自費出版専門のマヌーツィオで出版するように勧めていた。
 
テンプル騎士団に関する秘密を暴く本を出したいと面接した男が、宿泊先から失踪。テンプル騎士団の本ということで、ベルボと一緒に面接に立ち会ったガゾボンも警察の取調べを受ける。
 
その後、ガゾボンは当時付き合っていた女性とブラジルに移住するが、彼女との関係の破局を経て、ミラノに舞い戻る。本の調べ物専門の探偵業を始める。幅広い知識を買われ、ガラモン社で出版に必要な図版の収集を手伝うようになる。
 
やがて、ガラモン社長のアイディアで一大オカルト本のシリーズを出版することとなり、持ち込まれた作品から使えそうな原稿を探すうちに、編集者ベルボ、同僚でカバラに詳しいディオタッレーヴィ、ガゾボンの三人はテンプル騎士団を中心にした新たな西洋史を作り始める。
 
やがて、それが謎の集団を刺激し、ベルボは失踪する。ガゾボンに最後に掛かってきたベルボからの電話はフーコーの振り子のあるパリの国立工芸印付近からだった。事の成り行きを記録したベルボのパソコン、ベルボを助けるためにパリへ向かうガボゾン。三人がでっち上げた西洋史の中でのフーコーの振り子の役割とは、ベルボを捉えた集団の儀式でのフーコーの振り子とは・・・。
 
 
 
 
ウンベルト・エーコは「薔薇の名前」が大ベストセラーになったり、映画化されたりしたので有名ですが、その後に出たのが「フーコーの振り子」です。と、言っても1988年に出版され、日本でも1993年に翻訳されて出版されているので、何を今更、と言われそうなのですが、どうして1993年にこの本を読んでいなかったのか、と思わせるほどとにかく面白く、夢中にさせてくれます。
 
エーコは「薔薇の名前」と「フーコーの振り子」はいずれ読まないと、とずつと思っていながら、難しそうで後回しになっていました。そして、ある日なにげなくその日がやってきました。12月の下旬に、図書館に行ったら、返却されたばかりの本が並んでいる棚に、上下巻そろって「フーコーの振り子」が並んでいました。しかも新品のようなきれいな本で。出版年を見てびっくり。第一刷なので1993年のものです。いかにこの作品がこの図書館で不人気だったかが判ると言うものです。「難しそう」と倦厭されていたのでしょう。あっ、時が来たのね、と借りて帰りました。そして、すっかりはまってしまいました。
 
とにかく、すごい知識の本流に身を任せていく感じが快感です。失踪事件、謎の騎士団、オカルト集団、キリスト教史、生命の木・・・と一見サスペンスかミステリ風ですが、読んでいるうちに西洋精神史の知識が付いてしまうという「百科引用大小説」です。本の帯にあるように「錬金術からナチズムに至る百科引用大小説」「案内役は“知”の私立探偵」「テンプル騎士団の暗号を追って」「"知”の大伽藍に迷い込むスリル」「シグナルの矢は中世から現代へと貫通する」「記号の海で再編される歴史 そこで“振り子”の役割は ?」というような小説です。この帯の文言はよく作品を言い表していて見事です。
 
作品自体が巻頭にあるセフィロト(生命の木)の結節点(セフィラー)が各章の名前についていて、セフィラーが10あるため、10章になっています。セフィロトの木が紡錘形だからか、本章も真ん中あたりが膨らんで章が多くなっていて、初めと終わりの章は少なめ。各章には本文で扱われている話に登場するような古い文献の引用が付いていて、その章はその引用が暗示しいてるような展開をしていきます。非常に凝った構成になっています。
 
ダヴィンチ・コード」が好きな人なら、きっと好きです。京極夏彦京極堂シリーズが好きな人もきっと好きだと思います。
 
とにかく、一度読み始めたら、あっと言う間に読み終わってしまいます。本当に面白いので、もっと多くの人にも読んでもらいたい作品です。