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甘い生活を目指しています。

ミュージカル映画「レ・ミゼラブル」

ずっ~と見たいと思っていたミュージカル映画レ・ミゼラブル」を見てきました。
 
私は原作は子供の頃に読んだ、子供向け世界の文学名作選「ああ、無情」に始まり、その後オリジナルもきちんと読んでいるので、内容はよく知っているのです。ただ、ミュージカルの方は見ていませんでした。映像作品も何度も映像化されているので、テレビで放送があるつど見ていますので、映像にした際のイメージもありました。さて、そんな中、ミュージカル版の映画化です。いったいどんなふうになっているのでしょう、と興味津々で見に行きました。イメージ 1
 
あらすじは、あまりにも有名なのではしょります。
 
結論から言いますと、大判ハンカチを5枚持って行った方がいいですよ。ポケット・ティッシュも忘れずに、です。
 
最初からジャン・バルジャンの過酷な状況に泣けてきます。たったパンを1つ盗んだだけなのに、しかも妹の息子が腹をすかせていたからなんとかしてやろうとして、ついつい盗んでしまったのです。生活が安定して、飢える人が居ないような時代ではなく、皆が飢えているような過酷な時代背景です。囚人たちが奴隷のように扱われていて、船を綱で引いてドックに入れています。疲弊した顔をして生きていることに何の望みも見出せないような男たちの顔・顔・顔。その後すぐに、一夜の宿と食事を与えてくれた教会から銀器を盗み、警官につかまり神父に突き出され、神父に救われるシーンです。ジャンが神の愛を初めて知り、触れることで、これからは愛に生きようと一瞬にして変心するシーン。もう、泣けます。人間とは、ほんの一瞬で変わる事ができる瞬間に観客は立ち会っています。
 
とにかく要領よく小説で読むとかなり長い物語が展開していきます。ジャン・バルジャンであることがばれてしまうエピソードの伏線として、しょっぱなから倒れた船のマストを一人で持ち上げられる程の怪力の持ち主であることが描かれます。その後、荷車の下敷きになった人を救ってジャンであることがばれてしまったり、後半では革命の志士である怪我をおったマリウスを肩に担いで戦闘の中を助け出したり。
 
物語の中で何度か、ここでしらばっくれてしまえば身の安全は確保されるのに、というシーンがあり、ジャンは常に正直に名乗り出るのですが、その苦悩、一瞬の悪魔のささやき、それでも神の愛に報いようとする強い心がジャンを危機に陥れます。囚人であったジャン・バルジャンは、神の愛を知ってから、常に光の方を向いて生きています。それでも、仮釈放中の囚人であったということで、しつこく追い続けられていくのですが、ジャンの犯した罪とは、そんなに重いものなのでしょうか ? ジャベールという刑事に目をつけられてしまったのが運が悪かったというか、運命のめぐり合わせというところでしょう。
 
ジャベールは刑務所で生まれて育った身の上で、だからこそ自分を守る為に法を行使していこうとしている男です。法に従う、法に従わせることで、自分も律しているところがあります。しかし、世の中には、特に混乱している世の中では、法だけではどうにもならない事が多々あるわけで、ジャンのケースはまさにそれにあたりますし、紳士になってからのジャンが、「病院に連れて行くまで待ってくれ」「やることがあるので待ってくれ」と言うのもジャベールとしては許しがたい気持ちでしょう。ずっと敵対していたジャベールを殺せるチャンスが来た時も、ジャンはジャベールを逃がします。ジャンとしては当然のことです。「あなたは自分の職務を果たしただけです」とジャベールに言います。だってジャンは神様の愛に従って行動しているのですから。ジャベールは自問します。どうしてあの男は自分を殺さなかったのか ? そして、答えが見えた時に、ジャベールは自らの身を投げて終止符を打ってしまいます。ジャベールにしたらショックだったでしょう。囚人、落ちた犯罪人、法を守らないろくでもないムシケラくらいに思っていたジャンが、自分よりもはるかに深く、ヒトとして深い愛情を知っている、また多くの人に愛を注いでいる。ジャンは囚人であったが、光の方に向かっていて、神の愛を享受している。自分は囚人の中で育ち、そこから這い上がろうと自分を律してきたが、結局ジャンのような愛を知らなかった。自分は既に正しい心を持ち、周りの人々に愛を持って接している男を目の敵にして追い続けてきた、捕まえてまた刑務所に連れ戻そうとしている、しかしその男は今では愛のある神々しい人物となっている。いったい自分が信じてきた法とは何か、自分は長い間、そんなに力の無いものを信じて神の愛に対抗してきたのか、正しいとは何か・・・。このジャベールの葛藤は実に興味深く、現代を生きている私たちには身近な問題かもしれません。
 
前半の、愛を知って変心するジャンの姿、初めて自分の信じてきたものに疑問を呈して葛藤するジャベール、ここは対になっているシーンなのでしょう。ジャンの変心は険しい山の中の教会の墓地、ジャベールは渦巻く大瀑布の橋の上と、対照的に描かれます。
 
小説で読んだ時は、ジャベールが身投げする川はもっと小さい川をイメージしていました。しかも、もっとシンと静かなシーンを思い描いて読んでいました。今回、すごい巨大な川なので驚いたと共に、確かにジャベールの心象風景だとしたら、このくらい大きな巨大な流れでないと表現としては合わないなと納得しました。ジャンの険しい山の中の教会というのも、心を入れ替えたジャンが真人間として生きていくにはそのくらい険しい道であると言っているようですが、こちらは歌声と共に空中に舞い上がっていきます。彼は険しくてもきっと神に近づこうと善処するであろうことが予感させられます。
 
追われる身のジャンが荷造りするシーンでバッグに神父にもらった銀の燭台が1本あるのは、細かい描写だなと思いました。ほんの一瞬なのですが、1本を売って再スタートの資金にし、1本はいつまでもその時のことを忘れないように常に持っているのだろうなと思わせます。
 
この物語は、登場人物のお話一つ一つがドラマになるような作りで、子供の為に娼婦にまで身を落とし亡くなるファンテーヌ、ジャンに引き取られるファンテーヌの娘コゼット、コゼットと革命の志士マリウス、マリウスの同志たち、マリウスを慕うエポニーヌなど、その関係性だけでも見所が多い作品です。
 
ミュージカルと言っても、台詞と歌のシーンに分かれる作品が大半だと思いますが、なんとこれは台詞に曲がついていて、話すがごとくに歌いっ放しです。ずっと歌っています。それにしてもハリウッドの役者さんというのはすごいな、と思いました。ヒュー・ジャックマンラッセル・クロウも歌います。ファンテーヌ役のアン・ハサウェイなんて、この人こんなに上手だったの、と思うほど上手。コゼットを預かっている宿屋の女将としてヘレナ・ボナム・カーターが出ているのですが、なんだか「アリス・イン・ワンダーランド」の赤の女王を彷彿とさせます。
 
最後は希望に満ちた終わり方で良かった。小説では、ジャンが亡くなるところで終わりです。そこはさすがにミュージカルですから、盛り上げてのエンディングです。2時間38分とちょっと長めですが、十分に楽しめる力作となっています。小説読むのはちょっと時間が無くて、という方にもお勧めです。ミュージカル「レ・ミゼラブル」を堪能いたしましょう。