今回の「ルーブル美術館展」は「日常を描く 風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄」ということで、目玉は日本初公開のフェルメールの「天文学者」、ティツィアーノの「鏡の前の女」、ムリーリョの「物乞いの少年」、マセイスの「両替商とその妻」あたりでしょうか。ポスターもこの4点があるくらいだし、4点並べると時代も作風も違い、ばらばらに見えるものの共通しているのは風俗画であるという点です。「風俗画」というくくりは、かなり便利で幅広いわけですね。
さて、今回、私が驚いたのは、なんとピーテル・ブリューゲル ( 父 ) の「物乞たち」が来ていることです。事前にサイトを見ていたものの、これが来ているとは知りませんでした。ブリューゲル ( 父 ) の作品は、フェルメールより少し多い40数点、中々日本に来ません。ほとんどがヨーロッパの美術館に収蔵されていて、そのうちの半数がウィーンと本国ベルギーにあるはずです。ルーブルには確かこれ1枚のはず。通常、「いざりたち」とか「足なえたち」というタイトルで紹介されることが多かったようです。
「あっ、ブリューゲル ? ! 」と見た瞬間びっくり。そして、思っていたよりずっとサイズが小さいことに驚きました。目録によると 18.5 × 21.5 cm 。足の悪い5人の物乞いたちがそれぞれ王、司教、軍人、商人、農民を象徴する被り物をして、体中に賄賂をあらわす狐の尻尾をつけて輪になって回っています。すごくシュールな絵です。スパイス効いてます。脚を切断している身体障害者である彼らは、哀れまれることを利用して物乞いをしようとしているものの、その反面不正に手を染めているらしく狐の尻尾で胴衣を飾っています。皮肉が利いています。寓意が込められていそうです。こういうところがブリューゲルのブリューゲルたるところ。この絵をパリのルーブルまで見に行きたいと思っていたので、あちらから来てくれるとはなんとも驚きました。
cm です。フェルメールの作品は割と小さい作品が多いように感じます。以前見た、「地理学者」のサイズってどうだったっけ・・・と思いつつ。モデルは同じ男性で科学者だそうです。「天文学者」は天球技に右手を伸ばしています。身体は窓の方を向いていて、側面を見せています。「地理学者」と同じ室内、バックの棚も窓も一緒です。衣装も同じ。机に掛けられている布の柄が違います。窓からの光の刺し方も違い、「地理学者」より光の加減が弱いので、季節が違うのか、時間が違うのか。研究熱心な学者の横顔に、こちらも身を正す思いです。
今回の展覧会の構成は以下の通りです。
プロローグ Ⅰ 「すでに、古代において・・・」風俗画の起源
プロローグ Ⅱ 絵画のジャンル
第Ⅰ章 「労働と日々」 商人、働く人々、農民
第Ⅱ章 日常生活の寓意 風俗描写を超えて
第Ⅲ章 雅なる情景 日常生活における恋愛遊戯
第Ⅳ章 日常生活における自然 田園的・牧歌的風景と風俗的情景
第Ⅴ章 室内の女性 日常生活における女性
第Ⅵ章 アトリエの芸術家
古代の壁画かなにかの破片から始まって、壺とかまで、もうその頃から風俗画というのは存在していたというのがすごいです。一番身近な絵画のジャンルが風俗画なのかもしれません。画家もものすごく広くカバーされていて、レンブラントもルーベンスも、ミレーもコローも、ブーシェもフラゴナールもシャルダンもロベールも・・・と、もう色々。
第Ⅰ章の「労働と日常」ではドラクロワの隣にミレーの「箕をふるう男」が並んでいます。小さいサイズながらこのミレーも良くて、油彩なのにパステルのような質感、薄暗い室内の中で農夫の青いズボンがぼうっと浮かび上がります。このコーナーのホントホルストの「抜歯屋」はサイズも大きく、何より抜歯されている男の恐れおののく表情がこちらにも伝わってきて、痛そうで見ていて辛いです。ムリーリョの「物乞いの少年」は、悲惨な現状ながら、愛らしい顔立ちの少年が廃墟に身を寄せて蚤をとっている絵ながら、比較的明るい光が当たっている絵。彼は神の庇護の元、たくましく生きながらえていけるでしょう。
第Ⅱ章ではなんといってもレンブラントの「聖家族」です。サイズは小さく、薄暗い絵ですが、窓辺に寄り添う家族がいい感じです。窓辺で作業するイサク、幼子イエスとマリア、イエスを覗き込むマリアの母の4人が、窓からの光の中にすっぽりと納まっています。
第Ⅲ章では、ゲインズバラの「庭園での会話」が、まるで本の挿絵のようなタッチで素敵で気に入りました。会話する男女二人も美しく、そのバックの森の木々も美しく、絵本の絵みたいです。
第Ⅴ章のブーシェの「オダリスク」。丸々と太ったお尻を出している女性の絵で、ヘンです。その太り方からまるで赤ちゃんのお尻みたいです。いったい彼女はどうしたのだろう・・・と心配してしまいます。タッチはロココだけあってフワフワ。あまりいやらしい感じはしません。
第Ⅵ章は画家の仕事場であるアトリエの絵。ロココのブーシェのアトリエが結構地味だったりするのが意外です。シャルダンの「猿の画家」は寓意に満ちていて好き。レピシエの「素描する少年」の初々しさ。最後にユベール・ロベールの「ルーブル宮グランド・ギャラリーの改修計画、1798年頃」はロベールの希望を描いた作品のようです。その脇にフランス語とその訳でロベールとルーブル宮の関係が語られているのはぐっときます。
絵画は16世紀から19世紀のものまでカバーしていますが、壺など含む約80点を見ても1時間もあれば見られます。更に疲れません。宗教画が無いからだと思いますが、風俗画はかなり肩の力を抜いて見られるので、気楽に見られていいです。
この展覧会は、想像以上に良かったです。行って良かった。お勧めです。