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大天使の大きな羽に包まれる「ボッティチェリとルネサンス」展

ボッティチェリの「春」と「ヴィーナスの誕生」が見たくて、以前、遠路フィレンツェウフィツィ美術館まで行きました。
 
ルネサンスを代表する画家は ? 」という質問の回答は、「ボッティチェリ」でした。以前、何かで読んだ時に、その質問と回答が出ていて、実は非常に驚いたのです。ダ・ヴィンチてせもなく、ミケランジェロでもなく、ラファエロでもなく、答えはボッティチェリでした。ルネサンス期は多くの素晴らしい画家を輩出していて、誰か代表を一名と言われると非常に困るのですが、そうか、ボッティチェリなのか、と不思議な納得をしたのを覚えています。
 
今回、そのボッティチェリの作品が17点 ( 工房作含む ) 一挙来日公開ということで、今日は渋谷の文化村まで「ボッティチェリルネサンス」展へ行って来ました。
 
今回の展示は、ただ単にボッティチェリの絵を並べたものではなく、サブ・タイトルに「フィレンツェの富と美」とある通り、ルネサンス期のパトロンである金融業者や商人、その中でも大パトロンだったメディチ家との関係性も探っていきます。
 
構成は下記の通り。
 
序章 富の源泉 フィオリーノ金貨
第1章 ボッティチェリの時代のフィレンツェ 繁栄する金融業と商業
第2章 旅と交易 拡大する世界
第3章 富めるフィレンツェ
第4章 フィレンツェにおける愛と結婚
第5章 銀行家と芸術家
第6章 メディチ家の凋落とボッティチェリの変容
 
今までフィレンツェはどのようにして繁栄を迎えたのかが、イマイチよくわからなかったのですが、今回、フィオリーナ金貨の存在を目にして、納得がいきました。ボッティチェリが独立して初期に金貨鋳造協会 ( ? 正しい名称が不明ですが、金貨を作っていた機関です ) から注文を受けて描かれた「ケルピムを伴う聖母子」は、絵の額に金貨の模様がぐるりと描かれていて興味深いです。作品自体は初々しいマリア、丸々として可愛くない顔のキリストと中々綺麗な作品です。
 
今回の目玉は、なんと言っても横幅555cmの「受胎告知」です。実際にデカイです。ここまで大きな作品だとは思ってもいませんでした。ウフィッツィに行った時に、これは見た記憶がありませんので、今回初対面。ただ、「日本におけるイタリア年」の記念切手の絵柄で見ていました。
 
実際に見た「受胎告知」は、右にマリア。マリアはまるで赤ちゃんを抱くような腕の形で、見えない赤ちゃんの顔を覗き込んでいるようです。真ん中にマリアの寝室なのか、ド~ンとベッドが置かれています。左側に屋外の様子と風景。左の中に大天使ガブリエルが浮かんでいます。天使の羽は白く、先が淡いブルーです。マリアの表情は穏やかで、子供を見守るような慈愛が感じられます。
 
「受胎告知」という題材の絵は興味深く、描く画家によって、それぞれの捉え方で色々な「受胎告知」が描かれています。神妙な顔のガブリエルとマリア、思いっきり動揺しているマリア、お告げを粛々と受け入れるマリアなど、色々見ると面白いです。今回も、ボッティチェリのもう1枚の「受胎告知」も展示されていますが、そちらのマリアはお告げを厳粛に承っているような感じです。大天使ガブリエルの羽は赤と緑とクリーム色です。こちらは宙に浮いておらず、地面を歩いているように見えます。
 
2枚のボッティチェリの「受胎告知」では大きい方がはるかに好きです。宙に浮かんでいるガブリエル、赤ちゃんを抱く様子のマリアとも興味深い表現です。そしてこの巨大な絵は、ずっと見ていても疲れない。製作当時からその色なのか、時代と共に退色したのか、淡い色使いです。
 
ボッティチェリの作品は、初期のものは師匠であったリッピにそっくりなのですが、だんだん独自のものを取り入れて、ボッティチェリになり、サボナローラに心酔した後半は彼の持ち味の優美さを欠いた退屈な画風になって行きます。政治/経済と芸術が密接であった例を見るようです。今回展示されている作品も、ある時期を境にいきいきとした優美さが感じられなくなっていきます。優美であること、美しいマリアや天使、女神たちや神話の登場人物というのがボッティチェリの持ち味ですから、なんとも勿体無いことです。
 
ボッティチェリ以外の作品では、なんとフラ・アンジェリコの作品が2点出ています。フラ・アンジェリコといえば、「受胎告知」が有名ですが、今回の作品は「聖母マリアの埋葬」「聖母マリアの結婚」というテンペラ画が2点です。フラ・アンジェリコって、こういう作風だったっけ、というか、こういうのも描くんだ、という感じです。フラ・アンジェリコの美術館となっているサン・マルコ美術館で見たのは、沢山の祭壇画だったので、今回の絵はとても新鮮でした。なんだか、ピエロ・デラ・フランチェスカっぽい人の表情だな、なんて思いました。
 
現在、六本木の国立新美術館の「ルーブル美術館展」にオリジナルの方の「高貸し」という絵が出ているのですが、その模写がこちらに出ていて、そのすごい形相が印象的です。
 
フィオリーノ金貨も実物が出ていて興味深く、鍵や錠前のコレクションはデザインも面白く良かったです。あんな昔から、錠前は結構小さいサイズだったのが驚きです。
 
富と美の結びつきを見ていくという企画はどうかな、と思ったのですが、実際に見てみると面白かったです。ルネサンスの昔から、儲けちゃったら一般の人に還元しようという精神があったのは素晴らしいことです。昔の方が、芸術に対してのパトロネージは大きかったのかもしれません。
 
15:00位に到着したのですが、当初フィオリーノ金貨のあたりが人だかりがすごくて込んでいたのですが、16:00頃には異様に混んできましたので、行かれる場合は午前中が良いかと思います。
 
どうぞ、大天使ガブリエルの大きな白い羽に包まれて、うっとりして来てください。


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