スイスの個人所蔵されている油彩・水彩・リトグラフなどの作品約80点で、ほとんどが日本未公開作品だそうです。
実は、私はシャガールってあまり詳しくなくて、何かの展示会で見かければ「あぁ、シャガールね」というのは判るのですが、その作品の傾向と言っても、幻想的とか、ファンタジーとか、青っぽいのよねとか、人が宙に浮かんでるとか、牛や馬や鶏が描き込まれ、花嫁もよく出てくるなとかくらいの認識しかなかったのです。
ほぉ、そうであったか・・・という、新たな知識を得まして、人間知ると興味が湧くものです。
それで、今回展示会に行ってみました。かなり初期のデッサンに色鉛筆で色をつけたような作品もありました。それくらいだと、その後の彼の方向性はまださっぱり判りません。
目録が用意されていませんで、絵の脇にある説明をじっくり読んでしまいました。その説明によると、シャガールはロシア ( 現ベラルーシ ) に生まれたユダヤ人で、ユダヤの文化や習慣が絵に表れているのだそうです。シャガールの作品で人や動物が宙に浮いているのは、ユダヤの言い回しに幸せで仕方が無い場合「身体が宙に浮く」という表現があったり、首が回っている男性が描かれていたりするのは、相手にぞっこん恋しているという意味だったりするのだそうです。おぉ ! 首を180度まげて女性にキスしている男性の絵、有名ですよね。二人とも宙に浮いているし。そういう基礎知識がないと、どっぷり日本で生きている私たちには判らないですね。
ただファンタジーっぽいわけではなく、ユダヤの習慣や文化がきちんと判っているユダヤ人が見ると、とても判りやすいらしいのです。こんなにユダヤ人であることが画面に盛りだくさんという画家を私は他に知りません。だいたいユダヤの習慣で、偶像を崇拝してはいけないとかで、画家になったりはめったにしないらしいのです。もっともシャガールが生きた時代の話で、最近は結構画家も居るのかもしれませんけれど。
「天蓋の下の新郎新婦」という絵があるのですが、これもユダヤの習慣を描いているのだそうです。そう説明してくれないと判りませんよ。「あぁ、なんでベッドの天蓋みたいなのを担いでいる人たちが居るんだろう ? でも綺麗な色の絵よね」で終わってしまいます。
初期から、かなり晩年まで色々展示されていました。確かに見たことが無い作品ばかり。リトグラフの「サーカス」シリーズがかなり沢山出展されていて、中々面白いです。紙に墨汁で描かれたものもあって、結構なんでもあるんだな、というか、なんでも試してみたい人なんだなと思いました。
展覧会のポスターに使われている「画家の夢」という作品は結構大きく、かなり晩年の作品です。その絵の中で画家がキャンバスに向かってキリスト磔刑図を描いています。その画家を励ますように天使がやってきています。見詰め合う恋人たちも、抱き合う恋人たちも、ユダヤの象徴のろうそく立てを持った人も、竪琴を持ったダビデも描かれ、多くの人を指揮しているような人も描かれています。そして花束を持った人が太陽に向かって宙に浮いています。この画家はシャガール本人なのでしょう。見ていてほんわかした気分になる絵で、好きです。
「ロバの横顔の中のカップル」という絵では、寄り添って寝転んでいるカップルの後ろに大きくロバが描きこまれ、その後ろに家並みや花束が花瓶に飾られている絵で、何が斬新かというと構図とかお構いなしに色が3色に塗り分けられているのです。こんなの見たこと無い !! なんて斬新 !
あまり知識もないままに、いままであちこちで見たシャガールのイメージは美しい夢のような絵の数々だということ。寄り添うカップルや花嫁、宙に浮いた動物や人などがまるで夢の中の出来事のようです。時空を超越しているというか、重力から開放された人々は、心模様なのでしょうか。現実が辛すぎるから、空想の中だけでも、フワフワと浮いていたいということかしら、と思っていました。ピカソとマティスがライバルだった、というのも面白いエピソードですが、そう言われれば納得です。
展覧会の最後の方に、笑顔のシャガールの写真がかかっているのですが、猛烈に長生きで、散々苦労したこの画家も人生の後年は笑顔が出るくらいの達成感があったのでしょう。97歳の大往生だそうです。しかも作品数がピカソを超えるほど多いそうです。死後、遺産相続した人が、受け取った絵を大放出した時期があって、シャガールの絵の価格が大暴落した時期があるそうです。
シャガールの作品というのは不思議で、ポスターになったりしているのが額に入ったりしていると、かなりおしゃれでぐっときます。お土産コーナーでそういったものを販売していましたが、かなりおしゃれです。
場所柄か、年配の女性客が多い展覧会でした。日本未公開作品を中心に展示というだけあって、私が知っているような有名な作品はありませんでした。でも、シャガールのテイストはばっちり判る上、解説があって理解が深まったのは良かった点です。
生誕125周年ということで、別の展覧会が巡回しているのですが、なんと東京には来ないのです。はぁ、東京に居れば何でももれなく見られると思っていたのですが、違いました。その巡回展、ぜひ東京でもやってもらいたいものです。