【2016読書記録 1月~3月】
等伯 〈上〉の感想
長谷川等伯がまだ等伯になる前のお話が前編。等伯が武家の出であり、しかも信長とは反対陣営であり、養子に出ているにも関わらずいつまでも生家の影が付きまとい、思う様に京に出るのにも四苦八苦。稀なる才能の絵師でありながら、政治の波に洗われ、居を転々とし、右往左往しながらも、磨かれて行く技法。戦乱の世だからか、信仰が深く、等伯も寺との関わりが深い。絵師とは求道者である、を地で行く様なお話ながら、家族愛や周りの人々との信頼関係など、温かいエピソードもあり、いよいよ永徳との絡みのお話の後半が楽しみだ。
読了日:01月03日 著者:安部 龍太郎
等伯 〈下〉の感想
面白かった。後編はいよいよライバル狩野永徳登場だが、二人の絡みが割と少なかった。二人とも天才絵師ながら、正反対のタイプで、互いが相手に嫉妬しつつ、影響を与え合っているものの、和解なきまま永徳が急死し、等伯の絵師としての運命もまた大きく舵を切っていくあたり、やはりこの時代に二人の天才が必要だったのだろう。周りの政治的事情などが多く、作品を産み出すシーンが割とあっさりしていたのが残念だが、なるほど等伯の絵は武士の出であったから描けたものであると納得できる。骨太の絵師の疾走した軌跡を、面白く追跡した気分だ。
読了日:01月06日 著者:安部 龍太郎
ぼんくら(下) (講談社文庫)の感想
鉄瓶長屋の事件が、明かされていく後編。あっちとこっちと絡まった糸が徐々に解かれていく。そして最後の大物登場。殺されてしまった2人が哀れだ。金持ちの事情で家移りした住人たちのその後も気になる。店に尽くした元の差配さんの複雑な心境も心が痛む。それでも、力強く生きて行く市井の人達の姿が心温まるミステリーだった。続編、楽しみです。
読了日:01月09日 著者:宮部 みゆき
江戸川乱歩傑作集 (1) 孤島の鬼の感想
ミステリーとホラーと冒険ものとその他諸々がどーんと一つになったような作品。結構早く殺人事件が起こり、次の殺人も。展開が早く、どんどんこの独特な世界へ突入していく。ラストの方の島の洞窟探険は怖かった。それにしても、諸戸がステキ過ぎる。どんな状況でも話し言葉がきちんとしているのが、時代を感じさせ、かつ諸戸の人柄と知性を感じる。「BL乱歩」と銘打っているが、諸戸がゲイだと言うだけでBLではない。表紙の絵は小説の世界観を上手く表していてステキだ。
読了日:01月22日 著者:江戸川 乱歩
仮面舞踏会 (角川文庫―金田一耕助ファイル)の感想
長編。登場人物が多く、彼らの関係も複雑。大女優と5人の男(美男俳優、舞台演出家、画家、音楽家、実業家)、落ちぶれた華族の姑、考古学者、美貌の少女、などなど、華やかな顔ぶれは映像作品にも良いのでは。警察関係者の人数も多く、金田一耕助も最初から登場して調査に当たる活躍ぶり。表と思っていたら裏であった、と言う様な真実が後半で明らかに成って行く。人間とは自身の利益と保身の為にはかくも残酷で狡猾に成れるものか。読み応えのある作品で、面白い。
読了日:02月02日 著者:横溝 正史
秋の花 (創元推理文庫)の感想
シリーズ初の長編、そしてついに死人が。仲良しの片方が学校の屋上から墜落死。事故が自殺か殺人か?落語は「御神酒徳利」で、亡くなった少女と親友に重なる。若くしていってしまった者の無念、残された者の持って行き場の無い感情。その後、いかに生きるかが試されている。今回は読者の年齢や立場で色々な感想が出て来そうな作品で、このシリーズ中、一番好き。かすかな光が射したラストがいい。
読了日:02月07日 著者:北村 薫
六の宮の姫君 (創元推理文庫)の感想
シリーズ4作目は文学ミステリー。芥川の「六の宮の姫君」がいかに書かれたかを様々な文献から探って行く。その途中で、交友関係のあった各作家とのエピソードや親友だった菊池寛との交流が明かされる。前作「秋の花」は情緒的に楽しんだが、今作は知的好奇心を大いに刺激された。ラストは芥川と菊池がお互いに尊敬し深く愛を感じていた親友同志の交流の姿に涙した。このシリーズは1作毎に趣きが違うが、今作が私のベストだ。
読了日:02月18日 著者:北村 薫
江戸川乱歩傑作集 (2) 人間椅子 屋根裏の散歩者の感想
「変態乱歩」の作品集。「人間椅子」は発想が奇抜で不気味で面白く、オチで唸る。「押し絵と旅する男」の不気味ながら、恋する男の哀しさ、嬉しさに面白く読めた。中編の「パノラマ島奇譚」は、犯罪者の構想が広大。他人の金で自分の好きな世界を作ってしまうとは、豪気な話だ。ただ、これは読み辛い。短編の変態度は、素晴らしい作品集。
読了日:02月28日 著者:江戸川 乱歩
満願の感想
数々の賞を取っている「満願」を含む短編集。初めて読む作家さんだが、どの作品もこう来たかと思わせるどんでん返しが見事。「満願」と「夜警」が良かった。ホラー作品集を作る為に取材するライターが出てくるホラータッチの「関守」や、シニカルな結末の「万灯」も面白かった。人間の暗い欲望が辿り着く果てを切り取って見せられた様な気分になる作品集。
読了日:03月13日 著者:米澤 穂信
白と黒 (角川文庫)の感想
金田一耕助ものなのに、舞台はまさかの団地。時代もかなり現代に近づいてきました。団地という狭いコミュニティの中で起こる連続殺人事件。今迄の血縁繋がりのドロドロと比べると、そこに生きる人々は多種雑多で、存在が薄く感じるが、どこの誰とも正体の分からない人間集団の不気味さがある。金田一耕助が現代的にも活躍。「白と黒」ってそんな意味があったとは!意外と現代的な話にまとまっていて、面白かった。
読了日:03月13日 著者:横溝 正史
欲と収納 (角川文庫)の感想
タイトルから断捨離に挑戦した話しかと思い、群さん、身体をスッキリさせたら次は住まいなのかと、どのような成果が出たのか期待して読み始めた。結果、「欲と収納」というよりは「欲と煩悩」の様な。好きな物は知らず知らずに増えていき、整理するのが大変ですね。着物と本の収納に四苦八苦する群さんが、他人事とは思えず微笑ましいやら、心配やら。私も、少しずつでも物を減らして行こうと思った。年を取ってからでは面倒臭くて片付けも大変になりそうだ。
読了日:03月16日 著者:群 ようこ
朝霧 (創元推理文庫)の感想
大学生だった〈私〉も、社会人に。今回は短編集。「山眠る」の真面目一辺倒の元校長先生の娘を思う親心に泣け、「走り来るもの」の三角関係の清算をした女性の心情に泣け、「朝霧」の結ばれない恋をする乙女心に泣ける。「朝霧」の謎解きはワクワクした。なんて知的な下宿屋の娘さんだろう。今回も楽しくスルスルと読めた。日常の謎、侮れず。
読了日:03月21日 著者:北村 薫