ama-ama Life

甘い生活を目指しています。

【2017年読書記録 1~3月】

【2017年読書記録 1~3月】


松林図屏風松林図屏風感想
「この世にあらざる絵」をキーワードに、ただ求められる絵を書く絵師から、己の全てを掛ける絵師へと昇華していく話。タイトルと、内容が違う気がする。己よりも才能があるとすら言われた愛息の久蔵が若くして急死した後に、その死を乗り越える様に描かれたのが「松林図屏風」との説があり、そう言う意味では激しく生きて散った久蔵の生き様と強く関連しているが、目線が等伯では無い所が残念。等伯の人生に久蔵は影の様に寄り添う存在だったのだろう。久蔵が「桜図」を描く所がクライマックス。「等伯」の方が、私は面白かった。
読了日:01月03日 著者:萩 耿介

レーン最後の事件 (創元推理文庫 104-4)レーン最後の事件 (創元推理文庫 104-4)感想
衝撃のラスト。その作品の為に、X、Y、Zがあったのかもしれないと思う様な作品。最初から4部作で、と考えられていたのだろうか。事件の表面上は軽目の事件の様だが、その裏では300年をかけた大事件が進行しており、それにレーンやサム、ペーシェンスが巻き込まれて行く。途中、その姿はレーンらしくないという箇所もあるが、名優で変装の名人であるレーンの通常は隠している別の貌だったのかもとも思える。それにしても、4作しかないのが残念。もっとレーンとサム、ペーシェンスの活躍が見たかった。面白くてどんどん読めた。
読了日:01月09日 著者:エラリー・クイーン

よれよれ肉体百科よれよれ肉体百科感想
還暦を迎えた群さんが、カラダのヨレヨレっぷりを綴ったエッセイ。若い頃には想像もしなかった事態が、カラダのあちこちな発生。抱腹絶倒な話から、ためになる情報まで、若くないカラダのあれこれが描かれる。例えマイナス方向への変化でも、なるがままに受け止められる、更にそこから笑を引き出す姿勢は見習いたい。誰でもいずれヨレヨレになるのですから。そういう意味では心強い1冊。
読了日:01月14日 著者:群 ようこ

屋根ひとつ お茶一杯 魂を満たす小さな暮らし方屋根ひとつ お茶一杯 魂を満たす小さな暮らし方感想
家なり暮らしなり、整理したくなるとこの著者の本が読みたくなる。幸福とはどういう状態なのかを考えさせられる。とくに7章の「魂を満たすシンプルな生き方」が、心に響いた。たくさん持つ為に自分を偽り奔走する生き方を辞め、粗末でも寛げる空間でお気に入りのカップでお茶を楽しむ生き方を提唱している。時々、手に取りたい本。
読了日:01月14日 著者:ドミニック・ローホー

病院坂の首縊りの家 (上) (角川文庫―金田一耕助ファイル)病院坂の首縊りの家 (上) (角川文庫―金田一耕助ファイル)感想
ついに「金田一耕助のファイルシリーズ」最終作。登場人物の台詞が多く、とても読みやすいので、ドンドンと読み進む。雰囲気は相変わらずの複雑な家系のドロドロだが、だいぶ戦後復興して来たせいか、ドロドロっぷりが薄目。ジャズ・バンドや銀座のナイトクラブ、焼け跡の復興など、その時代の新しい雰囲気も読みどころ。後半、この事件がどう転んで行くかが楽しみ。
読了日:01月16日 著者:横溝 正史

病院坂の首縊りの家(下) (角川文庫)病院坂の首縊りの家(下) (角川文庫)感想
陰惨な事件から20年後、新たな事件が動き出す。複雑な血縁関係が元で起こる事件に、周りが巻き込まれて行くような。金のある所に人が集まり、繁栄も悪意もまた集まる。女性の恐ろしさと哀しさが、そこには漂う。結局男たちは女の周りで騒いでいただけなのでは、全てはその女によって回されていたのでは、と思う。ラストは哀しさいっぱい。金田一耕助の最後の事件として相応しい事件だった。
読了日:01月21日 著者:横溝 正史

裏が、幸せ。裏が、幸せ。感想
かつて「裏日本」と言われた、日本海側礼賛のエッセイ。読んでいると、ひたすら旅情と読書欲を掻き立てられる。裏側の良い所満載だが、それは表に住んでいる人間の感覚なのでは。裏側は素晴らしい事も沢山あるだろうが、想像を絶する程大変な事も沢山ありそう。仏教や神道についての章が勉強になった。電車に乗って日本海側を旅してみたい。
読了日:01月22日 著者:酒井 順子

阿蘭陀西鶴阿蘭陀西鶴感想
盲目の娘、おあいの視点で描かれる井原西鶴のお話。当時の「阿蘭陀」とは、奇矯で珍しいことを意味したようで、それまでの日本の言葉を扱った世界に新風を入れたのが西鶴。歌舞伎者と言うような感じか。途中までは父の心が見えなかったおあい。しかし、気が付いた後は、父娘で歩む創作渡世。この父にはこの娘が居なくては、夜も日も開けなかったのだろう。後半、本当に物語を紡ぐとは、という問題に突き当たってからの西鶴こそが、読みどころ。最後は泣ける。
読了日:01月25日 著者:朝井 まかて

古都 (新潮文庫)古都 (新潮文庫)感想
一人の若い女性の身の上に起こった出来事としては、動揺が大きいであろう出来事も、古都の四季の移ろいの中では淡々と描かれている。千年の京である京都にも、常に新しい時代の波が打ち寄せて来て、新旧交代の時期を告げている。父の時代と娘や息子の新しい時代の移り変わりも、密やかに進められる。全編を通じて京都の行事や花や木など、季節の移ろいと共に物語が進行し、なんとも美しい。人の世の機微もそこはかとなく描かれるのが余計に心に残る。
読了日:01月30日 著者:川端 康成

コドモノセカイコドモノセカイ感想
子供を主人公にしたお話のアンソロジー。子供がどう感じているのか、何を見ているのか、まさに子供の世界を描いている。「七人の司書の館」は、なんだか小川洋子さんぽい作品で、ものすごく好き。「最終果実」「王様ネズミ」「ブタを割る」「薬の用法」が好き。味わいはそれぞれだが、まるで味の違う12粒のチョコレートの箱を開けたようだ。装丁も素敵。
読了日:01月31日 著者:

夜と霧 新版夜と霧 新版感想
読むのに覚悟が必要だった一冊。ナチス強制収容所から生還した心理学者であったから、書けた作品。人間が各個人として否定され、ただの番号で管理される世界。人間らしく生き延びる事は何と大変な事か。多くは簡単に人間性を放棄してしまう。「何ものかがあなたを待っている」という人生に対する見方に衝撃を受ける。人間は未来への希望と期待で生かされているのかと。再読が必要な作品であり、万人にお勧めする一冊。
読了日:02月06日 著者:ヴィクトール・E・フランクル

先生のお庭番 (徳間文庫)先生のお庭番 (徳間文庫)感想
「御庭番」は御公儀のスパイの事かと思ったら、ここでは薬草園の園丁。シーボルトが出て来るので、上手いタイトル。前半は熊吉の職人として、人としての成長物語。しぼると先生、奥様の「オタクサ」、使用人のおるそん、園丁の熊吉「コマキ」の4人の生活は、偽りの出島での偽りの家族の様。周りの人々との交流も描かれ楽しい。後半は事件に巻き込まれる。自分が信じていた高貴な先生は、自分が考えていたのとは違う人なのか、それでも先生を信じたいコマキに泣ける。偽りが多い先生だったが、日本の美しい自然を愛する気持ちは本当だったのだろう。
読了日:02月13日 著者:朝井 まかて

アフリカの日々 (ディネーセン・コレクション 1)アフリカの日々 (ディネーセン・コレクション 1)感想
小説ではなく、著者の回想録であり、大叙事詩的作品。著者の目を通して描かれるアフリカの自然や、原住民、帝国主義の波に乗ってやって来た白人たちの姿が鮮やかだ。広大なコーヒー園を一人で切り回すデンマーク人の女性である著者の凛とした姿が美しい。農園で働くキクユ族や、土地を接するマサイ族など、現地の民族の特徴や、野生の動物たち、気候や土地の様子など、まるでアフリカの大地に一緒に立っている様な気になる。失われた過去の物語だから、余計に美しい物語になる。失った人でないと書けない物語だ。アフリカが気になって仕方がない。
読了日:02月19日 著者:アイザック・ディネーセン

ひでこさんのたからもの。ひでこさんのたからもの。感想
「あしたも、こはるびより。」の続編。高齢のつばたさんご夫婦の日常生活から生まれた暮らしの本で、今回は英子さんの小さなキッチンから生まれるお料理やデザートのレシピも掲載。人間が人間らしく生きるお手本の様な生活の様子にエネルギーをもらえる。ある物をフル活用、決して無駄にしない姿勢や徹底ぶり。凄いだけじゃなく、ほっこりとした気持ちも漂うのは、ヒトの手を通した仕事だからか。「今日中に終わらせなきゃっていうのはない」「穴があいたら繕えばいい」というスタンスが心地よい。日々を大切に生活するヒントになった。
読了日:02月23日 著者:つばた 英子,つばた しゅういち

ヒトでなし 金剛界の章ヒトでなし 金剛界の章感想
始めの方は中々物語が動いていかず、いったいどうなるのかと思った。ある事件をきっかけに物語が大きく動き出すと、そこからは面白くて一気に最後まで。ヒトでなしである語り手の頭の中を辿って行くので、繰り返しや自問自答が多く、まるで禅問答の様な趣き。続編が楽しみ。
読了日:03月02日 著者:京極 夏彦

ピギースニードを救う話 (新潮文庫)ピギースニードを救う話 (新潮文庫)感想
アーヴィング原作の映画は何本も見たのに、今まで読んだ事がなかった。表題作の「ピギー・スニードを救う話」は作者が考える作家の仕事が語られていて、この作者の作品の全貌を伺わせる。更に「小説の王様」は作者が好きなディケンズについて語りながら、実は作者の文学論なのではと思う。これからアーヴィングを読む指標になりそう。短編としては「ペンション・グリルパルツァー」「疲れた王国」が面白かった。アーヴィングは現代の作家だけに読み易く、書かれた当時のアメリカの元気良さが伝わってくる。長編とディケンズも読みたくなった。
読了日:03月04日 著者:ジョン アーヴィング

女たち三百人の裏切りの書女たち三百人の裏切りの書感想
紫式部の怨霊が語る「宇治十帖」、海賊たち、蝦夷たち、商人、女たち、などなど多方面の要素が最後に一つに。物語の中と外が溶け合ってしまう感じが面白い。語るは騙る事、何が本当で何が嘘か、誰が味方で誰が敵か、面をつけて別人に成る行為、物語の登場人物に自分を寄せて行く行為など、あちらとこちらを自在に行き来する。猫の目の様に変わる物語はとても面白く読んだが、大きく風呂敷を広げた割に収束があっさりしていたのは残念。それも、「憂し」の物語だからか。続編、希望。
読了日:03月14日 著者:古川 日出男

カウンター・ポイント (ハヤカワ・ミステリ文庫)カウンター・ポイント (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
各章のタイトルが野球関係になっている。今回のV.Iは過去からの亡霊のような昔の地元の事件を追う。いつもの面々に加え、初期作品常連組も登場して、地元シカゴにどっぷりの作品。ついにV.Iの愛するカブスも登場。地元愛が感じられると共に、コミュニティの怖さも感じる。今回も、V.Iは大暴れで大活躍。50代のはずだが、30代か40代位のライフスタイルに思える。ミスター・コントレーラス、高齢なのに物語ラストの方の大冒険にこちらがハラハラ。プロ野球の選手はアメリカン・ドリームの分かりやすい形なのかなと思う。面白く読了。
読了日:03月27日 著者:サラ・パレツキー

細雪 (上) (角川文庫)細雪 (上) (角川文庫)感想
第二次世界大戦前の時代のお話。かつて大阪船場の大店だった家に生まれた美しい4姉妹。店は人手に渡り、明らかに斜陽の家柄ながら、昔のプライドは未だに残っている。「高慢と偏見」と似た様な話で、三女雪子の縁談が中心。殺人事件や大きな事件は起こらない、と言っても四女の駆け落ち、長女一家の東京への転居など個人的には大事はあり。京都での花見、観月して歌を詠んだりと、下々とは一味違う昔のお大尽らしい雅さもあり、面白い。
読了日:03月29日 著者:谷崎 潤一郎