ama-ama Life

甘い生活を目指しています。

【2017年読書記録 7~9月】

【2017年読書記録 7~9月】

読了日:06月19日 著者:近藤麻理恵
精霊たちの家精霊たちの家感想
昔映画で見たが、原作はさらに面白かった。チリの裕福な家庭の女三代記でありつつ、それを貫く強烈な夫・父・祖父であるエステーバンの物語。割と淡々と進んでいくが、そこで起きている事はかなりの事件だ。チリという国の近代百年史とでも言おうか、前半の前時代的な近代化に乗り遅れたような田舎の事情や生活、後半のクーデター前後の恐怖の時代など、政治の中心的な事は描かれないが、その周りで起こっている事象に登場人物が右往左往させられることで時代の変遷を感じさせる。精霊がさまよっている家は平和の時代の象徴かもしれない。
読了日:07月05日 著者:イサベル アジェンデ

傷だらけのカミーユ (文春文庫) (文春文庫 ル 6-4)傷だらけのカミーユ (文春文庫) (文春文庫 ル 6-4)感想
三部作の最終作。タイトルどおりカミーユはズタボロです。しかもたった3日間の話なのに、とても密でハードな3日間。今回はヴェルーヴェン班ではなく、カミーユの孤独な捜査と戦いが繰り広げられます。それにしても、なんともねぇ~。なんかやりきれない話ですね~。面白さは折り紙付です。私としてはご贔屓のルイがもっと出てくれば嬉しかったのですが。三部作は終わっても、中篇があるらしく、早く翻訳して出版して欲しい。
読了日:07月12日 著者:ピエール・ルメートル

ネコと昼寝―れんげ荘物語ネコと昼寝―れんげ荘物語感想
「れんげ荘」最新作。自分の意思で働かない暮らしを選んでみても、やはり周りが気になるようで。キョウコさんは働くのが嫌なのではなく、前の職場の環境と同僚が嫌だったのでは。「働く」ことを「人の役に立つ」と定義すると、キョウコさんだって人の役には立っているのであまり心配しなくてもよい。「働く」を「お金を稼ぐ」と定義すると、また違ってくるが、マイペースで近所のネコと昼寝が出来るのも、また幸せのひとつの形ではある。キョウコさんがれんげ荘での暮らしを得るきっかけになった母親との葛藤が、ラストで氷解するとよいのだけれど。
読了日:07月14日 著者:群 ようこ

歌川国芳猫づくし歌川国芳猫づくし感想
国芳好きで猫好きなもので、ついつい手に取った。各話に国芳の飼っている猫たちが絡んできてまさに猫尽くし。各話は人情ものあり怪談ものありミステリーありと、守備範囲が広く色々と描いた国芳の絵のようだが、通して読むと国芳お得意の「寄せ絵」の様に絵師・歌川国芳の人となりが浮かび上がってくるような作品。各話、国芳の作品がらみであったり、当時活躍していた絵師やその後に評判を取る実在の人物たちが登場するのも楽しい。ひょうひょうと江戸と時代を描き、きっぷよく生きる江戸っ子の国芳の人物設定がいい。ドラマ化希望。
読了日:07月17日 著者:風野 真知雄

吉里吉里人 (上巻) (新潮文庫)吉里吉里人 (上巻) (新潮文庫)感想
吉里吉里語のルビがふってあり、読みづらいのだが、音読すると楽しさ倍増。荒唐無稽な話ながら、時事問題や国家批判など、チクリと刺さる話が出てくる。当時の問題を挙げているはずなのだが、現代にも当てはまる。東北の寒村と中央からはバカにされている吉里吉里国だが、エネルギー対策など中央よりはるかに磐石な体制を取っている上、ゴミ問題や酪農、農業政策もしっかりしている。果たして独立なるか。続きが気になる。
読了日:07月17日 著者:井上 ひさし

みだら英泉みだら英泉感想
歌川国芳猫づくし」を読んだので、同時代の絵師の話を探していて発見。初の皆川博子さん。英泉は美人画で有名だが、春画はそれ以上の様。酒と女に入れ上げた爛れた生活は、いわば英泉独自の女性像を描く為のコヤシといったところか。独自の絵をものにする為の絵師としての執念を腹違いの三姉妹との関係を絡めて描かれている。最初に朝顔市の様子で、狂い咲きの花について語るが、その後の三姉妹の行く末を暗示している。妹おたまの背に春画を描く下りは圧巻。為永春水北斎の娘のお栄、国芳など実在の人物たちが、その時代の風を感じさせる。
読了日:07月20日 著者:皆川 博子

戒厳令の夜 上戒厳令の夜 上感想
「精霊たちの家」でチリのクーデターに興味を持ったので読んだ。「幻の巨匠」と呼ばれるスペイン人画家の一大コレクションを追う話。内戦のスペイン、戦時下のパリ、敗戦後の九州、現代の東京と探索の旅が続く。「戒厳令の夜」とはチリのクーデターのことのみではなく、それはパリであったり東京であったり、戦争や内乱、中央政府と反対派の対立小競り合いや政戦によってもたらされる通常生活が機能しない戦慄に満ちた夜。内戦や戦争、そこにからむ音楽や絵画といった芸術活動の奉仕者たち。国家的陰謀からいかに絵を手に入れるか。続きが楽しみ。
読了日:07月24日 著者:五木 寛之

戒厳令の夜 下戒厳令の夜 下感想
下巻は一変、歴史の陰に隠された民たちのお話が現代の中央政治や国の成り立ちに絡んで展開される。コレクションの奪還・運搬は別働部隊が全てやってくれ、九州地方のみ戒厳令下という設定や、派手な銃撃戦などアクションも。主人公とヒロインはあまりここでは活躍しないが、ラストまでその絵は贋作なのではとやきもきさせる。人間の尊さを詠った3人のパブロの存在は、人類の良心と言ってもよい。歴史の現実を知っているだけに、物語の行く末に暗雲が立ち込めて辛いラストだ。「ダ・ヴィンチ・コード」が好きな人にはお勧め。面白くて一気に読める。
読了日:07月27日 著者:五木 寛之

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編感想
事件が起きるまでが途方もなく長い。主人公の過去をこんなんに色々知らないと分からないお話なのだろうか?1部はまだ何も分からず混沌とした感じで、主人公のあまり変わらない日常生活が描かれる。物事が動いていくのは意識下で、ということなのか静かな展開。何と言っても免色さんの胡散臭いキャラクターや騎士団長の不可思議さが際立つ。女性陣は相変わらず退屈な女たち。2部で物語がどう展開されていくか楽しみ。
読了日:08月01日 著者:村上 春樹

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編感想
面白くないわけではないものの、何だかビミョー。過去に同じような話を何度も読んだような。40歳までに何とかしなくては、と思う中年男性版「不思議の国のアリス」か。新しい自分を産む為の精神的な妊娠期間の話か。その割には、冒険の前後で主人公の心情なり人間性なりは変化したり成長したりはしていなそう。雨野具彦はいったいなぜ「騎士団長殺し」を描いたのかも想像の域でしかなく、ギャッツビーの様な免色さんの実像もはっきりせず、「人には知らないほうがいいこともある」って、そりゃそうでしょうが読者としては消化不良を起こします。
読了日:08月07日 著者:村上 春樹

吉里吉里人 (中巻) (新潮文庫)吉里吉里人 (中巻) (新潮文庫)感想
吉里吉里国の独立の「切り札」が徐々に明るみに。書かれた当時の日本の問題の数々がおちゃらけたエログロとナンセンスの衣をまとって描かれる。その時代と現代とあまり日本は変わりがないような。吉里吉里国は今の日本より進んでいるのかもしれない。特に農政問題やタックス・ヘブン、自衛隊問題、医療立国など、「へー」と唸らされる。性的な単語がボンボン出てくるが、本来日本は性的にはオープンなお国柄だったことを考えれば、江戸時代までの日本の良い所はそのまま残している土地柄なのか。ダメすぎる主人公と吉里吉里国の運命やいかに !
読了日:08月15日 著者:井上 ひさし

贅沢貧乏のマリア (角川文庫)贅沢貧乏のマリア (角川文庫)感想
「贅沢貧乏」で有名な森茉莉のエッセイを通して森茉莉像に迫るエッセイ。その手法が斬新。あくまでも「贅沢貧乏」の森茉莉のファンである群さん個人の生活や生き方に引き寄せた視点で森茉莉を切っていくのが心地よく、小難しいことは一つも言わないので分かりやすい。「この人とは友達になれそうもない」と言いながらも、晩年の掃除をまったくしないで積んだ新聞が土に成ってしまうような生活をしていた茉莉を面白いとも見ている。時にシニカルで時に温かい視線が感じられる。面白く読みながら森茉莉という作家の像を描いていて面白かった。
読了日:08月17日 著者:群 ようこ

我らがパラダイス我らがパラダイス感想
最後はスラップスティック風。これは介護・老後問題を通しての格差社会を描いた作品なのだろう。ただ、方法がなんだか稚拙な気がして、問題提起にすらなっていない。あくまでエンタメ小説。犯罪を犯しているのに「親の介護の為なら仕方がない」と自己弁護するのも、本当はよくない事が分かっているから。自分たちの終の棲家は自分たちで何とかしなければ、ということなのだろうが、結局金持ちでないとなんともしようがないと言う皮肉。主人公3人のアラフィフ女性に共感できないのは、介護の本当の大変さが描かれていないせいか。
読了日:08月17日 著者:林 真理子

ピエタピエタ感想
初読み。この物語のピエタとは孤児院兼女性の為の音楽学院だった場所。だがピエタとは慈悲や哀れみという意味があり、降架後のキリストを抱く聖母の慈しみの事か。前半は恩師ヴィヴァルディ先生の失われた楽譜や語り手エミーリアの母を捜す物語。その探索は先生の本当の人となりや、「ピエタの娘」たちの人生を掘り出していく。後半は全てのピースが嵌って心を揺さぶられる。語り口は静かだが内面は忙しい。前半は舞台、後半はフランス映画の様。宝石を売ったお金で買ったお菓子を食べる場面とお葬式の場面が好き。希望が持てるラストがよい。
読了日:08月21日 著者:大島 真寿美

エ・アロール-それがどうしたのエ・アロール-それがどうしたの感想
初めて読む著者。銀座の高級老人ホームが舞台。介護の話ではなく、そこの入居者たちの恋愛騒動と老人の性のお話。「エ・アロール」とは「それがどうしたの」と言う仏語で、隠し子問題を追及されたミッテラン元仏大統領の答えだとか。その名の通り老いても恋愛に貪欲に突き進む老人たちが描かれるが、カラッとしていて明るい。恋愛も性に興味を持つのも人間が元気に生きている証だろう。医師としての理想と提言らしき言及もあり、楽しく読んだ。年をとっても女性の方が男性より元気らしい。こんな解放的で生を謳歌できる老人ホームが日本にも欲しい。
読了日:08月28日 著者:渡辺 淳一

魂の退社魂の退社感想
物を最小限にして生活している人として何かで見て興味を持った。この本はそういう方向の話ではなく、退社に関する沢山の言い訳の本だった。正直言って、そんなに御託を並べなくても退社/退職はできる。この著者は世の中の1割未満の大手企業で何不自由なく会社の看板で働いてきた人で、9割強の中小零細の会社員や非正規で働いている人が普通に知っている事も知らずに生きてきた人なんだと思う。会社をやめなくてもお金をかけずに楽しむ方法なんて、世間様は知っている。この本の内容は特に目新しくも新鮮でもない。誰に向けて書かれた本なのか?
読了日:08月28日 著者:稲垣 えみ子

吉里吉里人 (下巻) (新潮文庫)吉里吉里人 (下巻) (新潮文庫)感想
独立宣言から2日、日本国は吉里吉里国の繰り出す「切り札」にオタオタ。そんな中で繰り広げられるスパイ戦。医療立国をうたう吉里吉里国の戦略には現代の医療制度を考えさせられる。ベルゴ・セブンティーンがストリッパーだったのはそういう展開だからですか、と爆笑。シニカルなスラプスティク・コメディーだった。吉里吉里国が独立しようとしたのは歴史的にも敗北し続けた東北の叫びだったのか。長い歴史のヒトコマとしての吉里吉里国独立騒動といったところか。面白く読んだせいか、読後しばらく吉里吉里語が抜けない。
読了日:08月31日 著者:井上 ひさし

ゼラニウムの庭ゼラニウムの庭感想
ピエタ」が良かったので読んだ。物語の最初のほうは「ベンジャミン・バトン」のようだなと感じ、最後のほうは「ポーの一族」のエッセンスを感じた。金満家に生まれた女性4代の年代記だが、そこをすべて貫く普通でない存在を中心にした物語。なんというか、イマイチ面白くなかった。ゼラニウムは長生きでタフな植物だからか、語られる普通でない女性の姿が重なる。
読了日:09月05日 著者:大島 真寿美

夜のみだらな鳥 (ラテンアメリカの文学 (11))夜のみだらな鳥 (ラテンアメリカの文学 (11))感想
極彩色の悪夢を見たような濃密な読書体験。どこまでが現実で、どこまでが妄想なのか、どこまでが夢で、どこまでが創作なのか、その境界線がごちゃ混ぜで、もうなんでもかんでも一緒くたになった感じ。ブニュエルが映画化をもくろんだというのもうなづける。自我と仮面、顔を持つことなど、顔/貌への言及が多く、アンソールの描く仮面の人々をイメージした。閉ざされた空間としての畸形たちの楽園、打ち捨てられた修道院、体を縫いふさがれた生き物インブンチェや乳児を入れた口をふさがれた袋など、子宮の中とイメージが重なる。猛烈に面白い。
読了日:09月18日 著者:ドノソ

地獄変・偸盗 (新潮文庫)地獄変・偸盗 (新潮文庫)感想
地獄変」が読みたくて手に取った。絵師としての良秀の業の深さが描かれる。良秀は人間性という意味では最低なのだろうが、絵師としては一流だろう。地獄の業火に焼かれる娘を見て、はじめは動揺するもののその炎の美しさに見入られそれを再現してしまう才能というのは凄い。ただ絵師としての自分と人間としての自分は相容れない。短編だが深い話だ。こんな話の元ネタが古典文学にあることも驚きだが、そこから持って来てアレンジした芥川は凄いと今更ながらに感じた。「偸盗」の自分も始末されるかもという考えがよぎる場面はドキリとする。
読了日:09月18日 著者:芥川 龍之介