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甘い生活を目指しています。

「神田日勝 大地への筆触」展

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東京ステーションギャラリーで28日まで開催されている展覧会「神田日勝 大地への筆触 」へ、本日金曜日は20時まで見られるので、会社帰りに行ってきました。

 

2019年の上半期に放送されていた朝ドラ「なつぞら」に、農業をやりながら画家になる山田天陽 君という、ヒロインなつの幼馴染で初恋の人が出てくるのですが、この神田日勝がモデルだそうです。ドラマでは神田日勝の実際の人生をかなり盛り込んでいる様です。

今、我が家の半分壊れたDVDのお陰で、全話撮り貯めた「なつぞら」をもう一度見てから消去していまして、ちょうど天陽君が若くして亡くなったところを見たばかり。今回の展覧会では絵の解説をドラマで天陽君を演じていた吉沢 亮さんがやっており、展覧会サイトから各自のスマホで聴けると言うサービスもありまして、これは見に行きたいと思っていました。

 

この展覧会は神田日勝没後50年を記念して開催。影響を受けた画家や同時代の画家の作品、日勝のデッサン帳などを含む84点が出品されています。

構成は以下の通り。

chapter 1 : Prologue  プロローグ

chapter 2 : Wall and Man   壁と人

chapter 3 : Studying Horses and Cows   牛馬を見つめる

chapter 4 : Studios / Interiors  画室 / 室内風景

chapter 5 : Experimenting with the Informel Style   アンフォルメルの試み

chapter 6 : Landscapes of the Tokachi District   十勝の風景

chapter 7 : Epilogue   Horse(last work, unfinished)  エピローグ  半身の馬

 

さて、神田日勝。朝ドラを見なければ知らなかった画家です。今回、絵を見るのも初めて。

ドラマの天陽君が馬の絵ばかり描いていましたが、モデルとなった神田日勝も馬の絵ばかりを描いていた、画業の初期があったようです。当時の北海道に入植した農家の人々にとって、馬は家族の様なものだったのだとか。カッコいい競走馬やサラブレッドではなく、農具を括り付けて引っ張って働く馬です。ズングリとした身体つき、短くて太い脚、馬具を付けた後は毛が擦り切れて地肌が見えますが、その目は優しく愛情深く、寂しくも見えます。開拓農家の暮らしがどんなにか厳しかったのだらろうと想像が付きます。それとともにその馬の姿は、描いている画家の姿や農家の人々の姿すら重なって見えてきます。

初期は生活の周りにいた馬や牛の絵が多く、また掘っ建て小屋かと思う様な見窄らしい家、ザラザラと荒れた土地、と農業の、自然の厳しさが荒い筆致で描かれます。

更に厳しい労働をしているのだろう人々、疲れ切って床に横になる男たち、寒さが厳しい中、小さなストーブを囲む人々、空き缶やゴミと一緒に描かれる家や人や馬といった暗い心象風景なのか現実なのか、とにかく大変なんだろうと見ていて感じます。色遣いも暗く、色が付いているのにモノクロっぽい。描いている画家の心模様でしょうか。

神田日勝の作品はベニヤ板に描かれ、ペインティングナイフで削るようなタッチが特徴のようです。馬や牛の毛の表現は太く荒く描かれているようでいて、本当の毛並みに見えます。

 

「画室/ 室内風景」のコーナーでは一転、明るい色彩が溢れ出しています。自分はアトリエを持っていなかったので、雑誌で見た他の画家のアトリエを描いた作品。今までのモノクロームの世界は何だったのか、と思うほど。そういうポップな画風が流行っていたのでしょうね。

 

このコーナーで一番目を惹くのは新聞紙が貼り巡らされている部屋にいる男を描いたもので、多分自画像かと思います。この絵にそっくりな作品が、実はドラマでも出ていて、ああ、これが元なのかと思いました。強いメッセージ性のある作品です。新聞という世間の声にびっしりと取り囲まれて息も絶え絶えな男。生活の苦しさやどんどん変化していく世間の圧力に押し潰されそうな「人」という事でしょうか。

 

アンフォルメルの試み」のコーナーは一体どうした!と思わせる程、今まで溜め込んでいた何かが爆発しました、みたいな画風。時代的に岡本太郎とか活躍していた頃なのかもしれません。推測なので実際はどうなのでしょう?でも、そんな感じの画風に急遽変わります。ここは描いたと言うより、塗った、感ごあります。

 

次の「十勝の風景」になると、何だかホッとします。初期のベニヤ板に描かれた作品は大きさも大きく、訴えかけるものが迫ってくる感じです。対して風景画は割と小ぶりで、穏やかに見えます。地元企業からカレンダーの注文ご10年分あったとかで、激情をぶつけるのではなく、各家庭の茶の間に飾られるであろうカレンダーゆえに、飾る人たちを喜ばせたいな、楽しませたいなという画家の気持ちが感じられます。カレンダーの元絵として出ていた「扇ヶ原展望」は、ドラマでも似たような作品ご出ていて、画家が自分の生きて生活した場所を愛していたのが分かります。

風景画の中でも、厳しい環境から土地を捨てた人々の姿が「離農」として描からていました。それは人が出て行った後の家であり畑の風景なのですが、この土地に根をはることの難しさを訴えているやうです。

 

そして、今回の目玉の作品が最後にドドーンと飾られていました。

静物・馬 ( 未完 ) 」と言う作品で、41.6 × 60.7 と大きな作品です。ベニヤ板に油彩で、左から馬が描かれているのですが、馬の顔と前足辺りまでは完成しているものの胴体の途中までしか描かれていません。解説によると、通常は全体をざっと線で描くなりして、その上に絵の具を載せていき、細部は後から描くらしいのですが、日勝の描き方は部分を仕上げてからその隣に移動していく方法をとっていたらしいです。それで、半身の馬が登場したわけです。

この作品が遺作となったわけですが、まるで神田日勝の人生そのものの様ですらあります。びっちりと濃厚な短い人生が、ぷつっと絶たれているわけで、この馬の姿によく似ています。この半身だけの馬ですが、初期に描かれた馬と比べると、あまり寂しそうではない表情をしているように見えます。目が寂しそうではなく、口元に笑みすらたたえている様な。毛並みは色鮮やかな時代を経て、黒一色ではなく様々な色が加えられています。神田日勝は短くとも充実した人生を送ったのでしょう。遺作の馬が初期の馬より明るく見えるのは幸いな事です。

 

一通り神田日勝と言う画家の画業を見たわけですが、なんだかその行程がゴッホに似ている様に思いました。ゴッホも最初は農業画家と言うような感じで、暗く辛い農家の人々を描いていたのですが、パリに出て印象派と出会い、一気に絵に色が溢れます。まるで今まで我慢してきたのが爆発した様に。ゴッホは様々な新しい画法を試していて、研究熱心です。ゴッホの展覧会に行くと、時々、ゴッホでもこんな穏やかや作品があるのか、と思うような作品がポッと出ていることがあります。神田日勝は32歳で亡くなっていて、短い人生を力強く駆け足で走り抜けた人で、画家としての年月の短さもゴッホと重なります。

 

初めて知る画家の展覧会でしたが、行って良かった。2時間足らずで回れるのか気になってはいたのですが、お土産コーナーでのお買い物を含めて1時間30分くらいでした。きちんと閉館の10分前には美術館から出られました。

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📷 左から目録・チラシ・ジュニアガイド。

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📷 ジュニアガイドの表裏。これ、よく出来ているので、大人もおススメ。

 

お土産コーナーでは展覧会オリジナルらしき手ぬぐいなども売っています。私は「あんバタサン」というお菓子を買いました。ドラマ「なつぞら」に出てくる雪月というお菓子屋さんで、ヒロインなつや天陽君の友人である雪次郎が開発したお菓子屋がこれとよく似ています。「あんバタサン」はあんとバターを混ぜたクリームをサブレに挟んだお菓子で、なんと作っているのは「柳月」と言うお菓子屋さんです。この辺からもドラマはヒントを頂いているようです。

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28日までなので、東京駅付近にお出かけの方、この機会に立ち寄られる事をお勧めいたします。

 

新型コロナウィルスの関係でずっと美術館に行けなかったのですが、この美術展が私の「新しい生活様式」の初めての美術展となりました。「新しい生活様式」に準じて、行ける美術展に足を伸ばしたいとウキウキしています。やっぱり、美術展に行くのは楽しい!