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冲方 丁の「天地明察」を天文イヤーに読む

冲方 丁の「天地明察」を読みました。
 
あらすじを簡単に紹介すると、江戸時代、四代将軍の頃、それまで800年も使っていた暦を改暦しようという動きがあり、碁を打つ職を食んでいた安井算哲 ( 渋川春海 ) に白羽の矢が立てられる。最初は日本の緯度を測るために、観測隊に入れられ日本各地で星を観測して記録を付けることだった。やがて、本格的に改暦を進める動きに身を投じる春海だが、もう一歩というところで予測わ外してしまい改暦の運気は萎えてしまう。しかし、改暦を考える一派は諦めず、また春海も改暦のために一心に打ち込み、やがて改暦という一大事業を5代将軍の時代に成す。
 
 
冲方 丁という作家の作品は初めて読みました。この作品は「本屋大賞」で選ばれた作品です。最初、なんだか読みづらくなかなか読み進めなかったのですが、内容はとても面白く、慣れてくるとサクサクと進めました。
 
とにかくすごい話です。でも、この作品を読むまでは「改暦」とか「暦」というものに対しての認識がとくにありませんでした。カレンダーって、大切ですよね。カンレダーによって人の営みは左右されているわけで、農業をはじめ年間行事も経済も全てが関わっているわけです。そして、江戸時代というのは、本当に転換期だったわけで、それまでの武力によって人々の生活も経済も左右していた時代から、文化的に物事を進めていく時代に変わった時代なんですね。だいたい武士はもういらない時代なわけで、町人文化が花開いたのも納得です。
 
この作品の主人公である安井算哲も、武士ではないのです。碁を打つ専門家なのです。しかも本業は将軍の前で碁を打つものの、対戦ではなくて、手を踏んでいくのを見せるというもの。大名に呼ばれれば、真剣に碁の相手もするものの、その職業自体に倦んでいる青年なんです。江戸時代、碁打ちの息子は碁打ちになるのが普通、武士でも足軽の息子は足軽、商人ならば息子も商人と、仕事をついで行くのが普通です。碁を打つにしても対戦するわけではないことに、うんざりしている跡継ぎで、星の観測をしたり、算術が大好き。
 
算哲の場合は、碁職という特殊な職業がら身分を隔てず色々な人々との交流があったのと、天文学や算術がすきだったり得意だったり、神道に詳しかったり、占術も納めていたりと多方面の知識があいまって、改暦を目指している大パトロン会津藩保科正之水戸光圀大老 酒井忠清などの幕府の大立者である人々に重用されることになっていく。その上、学問を通しての知人の協力もある。大変なことを成すにしても、ひとりで行うわけではなく、何人もの人々の思いや協力があって形となるわけで、その輪の中心に居たのが算哲ということでしょう。
 
それにしても20年以上もかかってやり遂げる話で、確かに何かを形にするにはそのくらいの年月はかかるのでしょう。むしろ、20数年では短いかも。ものによっては、一世代ではすまないこともありますよね。
 
色々な人々の思いを背負って、頑張りとおす算哲の姿がすがすがしく、彼を取り巻く人々との関わりも面白く読めます。こうやって一つずつ近代化されてきたんだな、と思うと、それを担っていた人がいるわけで、すごいことだなぁと思いました。この話は暦を改定する話ですが、日本地図を作った伊能忠敬とか、日本にきちんとした仏教の戒律を持ち込むために中国から高僧を招く話である「天平の甍」とか、似た感じの話だなと思いました。何かを成そうとすると、ひとかたならない苦労が付いて回るのですね。そうやって少しずつ物事は進んでいくのですね。
 
天文イヤーの今年に読むにはピッタリの作品ですし、映画も調度上映中ということもあって、きっと楽しんでその世界に身を浸せると思います。