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終着駅

「終着駅 トルストイ最後の旅」を見てきました。
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【あらすじ】
文豪トルストイには48年連れ添った妻ソフィアがいる。数々の傑作を世に送り出したトルストイは次第に「トルストイ主義」と呼ばれる平等主義を世に広めようと活動していた。トルストイ著作権の放棄を迫るトルストイ主義の活動家たち、子供に遺産を残したいソフィアの間で激しい対立が起こる。妻との対立に疲れて家出したトルストイと、「世界三大悪妻」と呼ばれるソフィアの愛の物語。
 
【感想】
うーん、夫婦の愛の物語なんです。でも、あんな奥さんがいたら、やっぱり亭主は家出しちゃうかも。
とにかく、この妻ソフィアは強烈すぎる。面倒くさい。私がトルストイでも逃げたい。
 
どうしてソフィアがそんなに遺産に執着するのか。特に著作権に。まだ巨匠になる前のトルストイが、「戦争と平和」を書いていた時に毎日清書をしていたのがソフィアだった。「戦争と平和」は6回も清書した。書いている間、毎日このキャラクターはこんなことを言わない、とか、もつとこんな風、とかソフィアが感想を述べて、トルストイが書き直したりした、というエピソードを語るシーンがあるが、作家トルストイは彼自身が一人でなったものではなく、ソフィアの内助の功があったからだ、この財産は2人で築いたのだ、とソフィアは思っているから、特に著作権に執着するのだ。だから、活動家たちに担ぎ出されたトルストイに自分は必要とされていないと感じて、ただをこねているのだ。遺産を子供たちに、と言いながら、本当は自分の存在を第一に考えてくれない夫へ抗議しているのだ。
 
トルストイだって、妻を愛している。48年連れ添っても、初めて出会った頃の事を忘れない。どれだけ幸せだったかを肌に刻み込んでいる。「妻が私に会いに来たのなら、それを私は受け入れるしかない」と言うくらいいつまでも妻を愛してはいるのだ。
ただ、大作家・思想家となったトルストイは、昔のように一人の夫としてだけ存在できなくなっている。その動向は注目され、常に新聞種にされている。彼を師と仰ぐ人々もいる。もう自分だけの生活を維持するなんて不可能だ。もちろん、まだまだロシアの人民の為にやりたいこと、やらなければならないことは沢山あって、時間が足りないくらい。大きな希望を抱いている。その希望、それは仕事の最終段階ともいえるが、それと妻が対立している。
 
私は日本人だからか、この妻ソフィアの気持ちがいまいち理解できない。人々に慕われ、思想的に師と仰がれ、家族のための生活は何不自由ないのに、どうして年老いた夫がやりたいことを温かく見守れないのだろう ? 年老いても青年のごとく、やりたいことがある夫なんて、自慢してもいいくらいで、足を引っ張る必要は無い。むしろ応援してやればいい。だって、その夫のお陰で何不自由ない生活が送れたわけだし、名士夫人として密かに鼻を高くしたことだってあるはずだ。自分も夫の仕事に貢献した、と言いたいかもしれないが、元が良くないと貢献のしようもない。年をとったのだし、夫の好きなようにさせてやればいいのでは。
 
洋画では、こういう妻がとても多い。ある映画で、巨悪に立ち向かおうとしている捜査官の妻は、自分の身を案じてあっさり離婚していた。これが欧米風なのかしら ? 違和感を感じる。良い時だけの夫婦なんて、そんなの夫婦じゃないでしょう。良くない時も一緒にいて、乗り切っていくのが夫婦ってもんでしょう。
 
トルストイが82際で家出したあげく、小さな駅で亡くなった、というのは本のあとがきで読んだことがあったが、駅でなくなった、というから行き倒れかと思っていた。文豪なのに行き倒れ ??? という感じだったのだが、この映画で見る限り、きちんとベッドで亡くなっている。しかも、かなり長く患っている。病身をおしても家出してしまうほど、妻と活動 ( 自分の理想 ) との板ばさみになっていることが、辛かったのだろう。
 
この長年連れ添ったカップルと対照的に描かれるのが、トルストイに心酔する作家志望の青年で秘書のワレンチンと、奔放な女性マーシャとの未来が期待できるカップルだ。マーシャは現代的な女性で強くしなやか、一番共感できる。トルストイ主義を守り、禁欲を守っていたワレンチンはマーシャとの出会いで今までの自分の狭い世界から一歩踏み出していく。初めての本当の恋を知ったから、彼はトルストイとソフィアの愛し合いながらも反目しあう老いたカップルにも温かく接していけたのだろう。
 
トルストイがワレンチンに語る、一番大切なことは「愛」だけ、という言葉は重い。シンプルだけど難しい。
トルストイ亡き後、駆けつけたマーシャに「トルストイは逝ってしまった」となげくワレンチン。「わたしがいる」と答えるマーシャ。きっと2人は良い夫婦になっていくのだろう。トルストイとソフィアのように苦しみと哀しみを味わうのではなく、愛のプラスの面を増幅させるような夫婦に。
 
トルストイが日本に紹介されたのは、確か最初は思想としてだったのではなかったか。こんな東洋の小さな島でもトルストイの思想を支持した人々がいたわけだから、ロシアではさぞかしだったのだろう。
 
トルストイの小説は面白い。もしかしたら、作者の人生の方がもっと面白かったのかもしれない。
夫婦とは何か、と考えさせてくれる映画だった。