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「ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア」 ルーベンスの画業を総体的に拝見

本日より開催の「ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア」を文化村のザ・ミュージアムに見に行ってきました。
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ルーベンスって、とにかく有名なバロックの巨匠ですよね。「フランダースの犬」でネロが見上げた祭壇画はルーベンスのものでした。ルーベンスは多作な画家で、愛国心篤く国の為に外交官のような事もしています。ルーベンスの作品は膨大で、それは彼が運営していた工房が素晴らしかったかららしいのです。有名な工房のお弟子さんに肖像画で有名なヴァン・ダイクが居ます。それ以外にも、一本立ちしている画家とのコラボレーションが多々あったということで、それまでの絵画制作に比べるとかなりシステマチックに作品を量産していたようです。
 
今回の展覧会は、そんなルーベンスの工房にもスポットライトが当てられたものになっています。ルーベンスの工房はかなりレベルが高かったんだろうなと思います。とにかくルーベンスは作品が多いのと、教会に飾るような作品は下絵をルーベンスが描き、工房がそれを元に制作したという話を聞きます。時に、出来上がって教会にある作品より、下絵の方がいいのでは、と思うような場合もあります。
 
構成は下記の通りです。
1.  イタリア美術からの着想
3. ルーベンスと版画制作
4.  工房の画家たち
5.  専門画家たちとの共同制作
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さて、まずルーベンスの作品が紹介されます。最初に展示されている「カスパール・ショッペの肖像」は、なんとオーランド・ブルームにそっくり ! そんなことに喜んでいるな、という感じですが、ルーベンスもこういうのを描くのねという気持ちでいっぱいです。つづく「聖ドミテッラ」はまるでコインのデザインにでもなりそうな、格の高さを感じさせる女性の横顔です。ちょっとレンブラントの「ミネルバ」を彷彿とさせます。「毛皮をまとった婦人像」はどこかで見たことがあるな、と思ったら、ティツィアーノの模写だそうです。そこから、二番目の妻をモデルにした「毛皮さん」と呼ばれる作品を描いています。ウィーンの美術史美術館で見たのですが、こちらは愛妻がモデルなので、なんだかデレデレ感が伝わってきそうな愛情に満ちた作品でした。
 
そして、今回のポスターにも使われている「ロムルスとレムスの発見」です。あれっ ! 私、これを以前に見たことがある・・・と思ったら、ローマで見ていました。ローマ発祥の物語がありまして、ロムルスとレムスという双子の兄弟が捨てられるのですが、オオカミが自分の乳を与えて育てた、ということになっています。ローマには双子に乳を与えるオオカミの像もありました。この絵も左側の男性はテヴェレ川、女性は水の精だそうです。右側は羊飼いということです。双子はその後羊飼いになるので、発見された瞬間ということでしょうか。左右の人物は、なんだかとってもルーベンス風なんです。オオカミの毛並みの素晴らしさ。一段明るく描かれているのが双子の赤ちゃんです。いつも思うのですが、ルーベンスの描く赤ちゃんや子供って意外にも可愛いのです。ピンクの肌の双子の赤ちゃんも、他のルーベンス作品の天使のようです。このコーナーでは、やはりこの作品がサイズも大きくインパクトがあります。
 
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ルーベンスアントワープの工房」というコーナーでは、ルーベンスが実際に描いたものと工房との共作のもとが展示されています。早くに亡くなった兄の肖像画もあり、ルーベンスがとても家族を愛していた人だったのが伺えます。私にとってはよく見かけていた絵もありました。「眠る二人の子供」という作品で、通常は国立西洋美術館の常設展のコーナーに飾られているのです。あぁ、今回は渋谷におじゃましていたのね、という感じです。
 
ヘクトルを打ち倒すアキレス」という大きな作品があるのですが、これなんてとてもルーベンスっぽいなと思いました。もう、その瞬間を切り取りました、というところで、肉付きのいい二人の武人の躍動感が伝わってきます。
 
ルーベンスの工房の作ということで、「聖母子と聖エリザベツ、幼い洗礼者ヨハネ」という大きな油彩が出ていますが、幼い子供二人の表現はまさにルーベンスの描く子供が原型と言う感じです。このマリア、ちょっとおばさんぽいというか、ルーベンス風にとても豊満なので、想定されるこのシーンのマリアの年齢より老けて見えます。
 
「キリスト哀悼」は、あまりサイズは大きくありませんが、洞窟のようなバックと色々な小道具が手前に広がり、その部分はヤン・ブリューゲル ( 父 ) が描いているそうです。これは、ルーベンスブリューゲルの共作だとか。その隣の「復活のキリスト」は、今にも立ち上がりそうなキリストが活き活きと描かれています。むっくりと起き上がったキリストの顔に輝く目にドキリとしました。
 
このコーナーでは、サイズは小さいのですが、スペイン王だったかに注文された作品のうちの数点が展示されています。これが完成サイズなのか下絵ということなのか、私としてはよく判らないのですが、これは初めて見ました。ルーベンスの作品は結構サイズが大きいのかなという気がしていたので、あまりにコンパクトで逆に驚きです。
 
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ルーベンスと版画制作」のコーナーは、当たり前ですが、これでもかの版画一色です。ルーベンスが原画を描いたものでも、版画家というのでしょうか版画を制作する人によって、ものすごく見た目が変わってしまうものなんです。細かく緻密な彫りの作風のものもあれば、もっと線が太くて線が少ないものもあって、好みは色々あるでしょうから、その時代の購入する人の好みによって作成者を分けたのでしょうか ? この版画コーナー、ルーベンスのかなり有名な作品の版画バージョンが多々展示されています。脇の解説と共に、元の絵の写真も出してくれているので分かりやすく、絵画と版画の違いや、版画になっても失われていないテイストを見比べたり出来てなかなか楽しいコーナーです。
 
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ルーベンスは優れた版画製作者を探す為なら海外にでも出向いたそうです。また、あまりにもルーベンスの要求が厳しくて、ルーベンスを暗殺しようとすらした版画家もいたとか。ルーベンスは仕事には厳しかったのですね。もっとも、ルーベンスの工房のレベルはかなり高かったのかと考えられますので、版画部門だけ甘くなるわけにもいかなかったんでしょうね。
 
「工房の画家たち」というコーナーでは、特に有名な画家の、その人自身の作品が紹介されています。なんと言ってもスターはヴァン・ダイクでしょうか。「悔悛のマグダラのマリア」はすご~くいい ! 同じ題材を多くの画家が描いているので、ポーズはなんとなく見覚えがあるのですが、なんとも気品のあるマグダラです。またまた今まで私が見たヴァン・ダイクの作品に描かれた女性が美人だっただけなのか、彼の作品の中で、聖書に基づいたものなどの女性は皆美人なのか、ヴァン・ダイクの描く女性は美しいですね。肌の透明な白が際立ちます。もしルーベンスだったら、もっと肌の色はピンクかな、なんて思います。
 
フランドル絵画展などで、絶対いつもお目にかかるヨルダーンスもルーベンスの工房にいたのですね。今まで知りませんでした。「羊飼いの礼拝」は、いかにもヨルダーンス色全開です。垢抜けないというか田舎っぽいというか素朴な顔立ちの人々が生まれたばかりのキリストを是非見ようと取り囲んで覗き込んでいます。そこには素朴な喜びが満ちています。
 
最後のコーナーは「専門画家たちとの共同制作」です。今の時代、例えばマンガの制作ではプロダクションを作って、担当を割り振って一つの作品を作っていくというのは普通になっていますが、この時代にすでにやっていることに驚きます。ルーベンスは風景画が極端に少なかったと思いますが、そういうところを得意の画家にお任せするのだそうです。風景や静物はヤン・ブリューゲル親子、動物はフランス・スネイデルスという具合です。今回、スネイデルスとの共作として「熊狩り」という大きな作品が展示されていますが、人物はルーベンス、動物はスネイデルスが描いたのだそうです。立ち上がった熊に腕をかまれている高貴な身分らしき若い男の姿です。熊の姿の迫力があること、恐ろしいこと。版画で出ている「ライオン狩り」といい、猛獣との格闘というのは、一つのテーマとして成立していたのでしょうか。
 
ヤン・ブリューゲルとの共作は今回このコーナーに出ていないのですが、通常共同制作をする場合はルーベンスが人物を書いた後、ルーベンスの采配に従ってそれ以外を描くのだそうですが、ヤン・ブリューゲル (父)の場合は、彼のほうがルーベンスよりずっと年上だったので、「こういうの描きたいんだよね」とルーベンスが依頼すると先に風景や静物ブリューゲルが描いて、その後ルーベンスが人物を描き加えたのだそうです。父亡き後、息子のヤンもこの共同制作に参加することになるのですが、父の時代のやり方がそのまま継続されて、ヤンが先に描き、後からルーベンスが描くというスタイルだったそうです。ルーベンスって、先輩を立てるというか、なんだか常識人ですね。
 
さてさて、今回の展覧会、お気楽に見に行っていただきたいです。当初、ルーベンスだしな、とかなり重量級の展覧会を想定していたのですが、行ってみたら結構気楽に見られて良かったです。文化村での展示はこのくらい軽やかな方が場所柄合っていると思います。ルーベンスというと、ピンク色の肌をした豊満な女性 ( 現代ではメタボ認定を受けそうです ) の裸体がこれでもかこれでもかと描かれているイメージです。あるいは肉体美を誇るような頑強そうな男性が闘っているところとか、とにかく見ていてドド~ンと重い感じとでもいいましょうか、牛肉がゴロゴロ入ったビーフシチューを食べている感じと言えば分かりやすいでしょうか。とにかくお腹いっぱいになってしまうという思いがあったのです。ところが、今回は工房の紹介もし、工房で活躍した画家の作品も展示し、共同制作した画家の紹介もし、ということで、ルーベンスの画業を包括的に紹介しているので、ルーベンス色が幾分和らいでいるのだと思います。
 
ルーベンスはあまりに有名で、ヨーロッパの美術館では見ないということはない画家です。特にウィーンでは、「ここでもルーベンス ?! 」というほど、あっちでもこっちでもルーベンスのコレクションが充実しています。一箇所でもすでにお腹いっぱい、という感じなのです。なので、なんか、ルーベンスはいいや、としばらく思っていたのですが、その割りにルーベンスのことを知りませんでした。今回、こういう機会にルーベンスという画家の人となりを垣間見た気がします。そして、何時の時代でもルーベンスは巨匠だし、人気のある画家なんだと納得いたしました。
 
私も、「フランダースの犬」のネロが見た、大聖堂のルーベンスの傑作と言われる「キリスト昇架」「キリスト降架」「聖母被昇天」をいつか見に行きたいと思います。
 
 
上から、展覧会のポスター。描かれているのは「ロムルスとレムスの発見」。
  「毛皮をまとった婦人像」(ティツィアーノ作品の模写 )。
  「兄フィリップ・ルーベンスの肖像」。
  版画「キリスト降架」の原画になった絵画。版画は左右反転しています。
  版画「ライオン狩り」の原画になった絵画。版画は左右反転しています。