「画家一族150年の系譜」とあるように、ピーテル・ブリューゲル(父)からスタートし、その子・孫・ひ孫と代々画家として活躍したブリューゲル一族を紹介する展覧会となっています。今回の展示はほとんどが個人蔵の作品で約100点。よく、あちこちから借りてきたなと思います。
構成は以下の通り。
第1章 宗教と道徳
第2章 自然へのまなざし
第3章 冬の景色と城砦
第4章 旅の風景と物語
第5章 寓意と神話
第6章 静物画の隆盛
第7章 農民たちの踊り
さて、画家一族を紹介する、というものですが、その祖となったピーテル・ブリューゲル(父)の紹介があまりにも薄いのが残念です。ピーテル・ブリューゲル(父)の油彩作品は46、7点しか現存していないので、それを借りて来られれば、かなり違ったと思うのです。きっと借りられないだろうから、沢山ある版画作品が出るのだろうなと予想していたら、やはり版画作品でしたが5点とピーテル・ブリューゲルとその工房の作品が1点。ちよっと祖として紹介するには弱いのでは、と思います。
さて、2人の息子ですが、兄であるピーテル・ブリューゲル(子)とヤン・ブリューゲル(父)は、結構沢山の作品が紹介されています。「花のブリューゲル」「ビロードのブリューゲル」と呼ばれたヤンについては、静物画としての花の絵や森を描いた風景画が有名で、その辺りはきちんとカバーされていたようです。また、この人は他の画家との共作も多く、時代的な流行だったのかもしれませんが、共作の作品もあり、分かりやすいです。
一方、「地獄のブリューゲル」と呼ばれた兄のピーテルに関しては、「鳥罠のある冬景色」の模写が出ています。父の作品を沢山模写したということですが、「鳥罠のある冬景色」だけでも40点もあるのだとか。国立西洋美術館にもあるのですが、今回こちらで展示されているのは個人蔵のものでした。
ずっと見ていくと、ちょっとピーテル(子)の方が作品が少ないかなと思っていたのですが、最後に「野外での婚礼の踊り」という作品があり、これはピーテル(子)のオリジナルの様です。ピーテル・ブリューゲル(父)の作品の「農民の踊り」と「農民の婚宴」を合体させたような構図となっています。いずれにしろ、オリジナリティはあまりない人だったのかもしれません。「地獄の」と言われていたので、父の魑魅魍魎が跋扈するような作品の模写も沢山あるのではと思うのですが、その辺は紹介されず。なんとなく片手落ちのように感じます。
さて、孫の代になると、ヤン(親)には4人の子供がおり、2人の息子、ヤン・ブリューゲル(子)とアンブロシウス・ブリューゲルが画家に成っています。2人の娘のうちの1人は画家のダーフィット・テニールス2世と結婚しています。もう一人の娘の子供はヤン・ファン・ケッセル1世、ヤン(子)の子供3人のうちの2人が画家で、アブラハム、ヤン・ピーテルです。
こう見ていくと、弟の家系が画家の才能を受け継いでいるようです。
ヤン・ブリューゲル親子共作の「机上の花瓶に入ったチューリップと薔薇」も美しい。何枚もの花の静物画が並んでいるコーナーは、とても明るく、華やいでいます。
このコーナーと「農民たちの踊り」のコーナーは写真撮影が出来るので、それはいいなと思いました。
一族の150年に渡る画業を順に見ていくわけですが、時代がどんどん変わって行ったのだろうなと思いました。ピーテル・ブリューゲル(父)の時代は政治的に不安定だったのでしょう。地獄図の様な物が好まれる一方で、宗教色が強く、また土着の民衆の力も隆盛して来た時代かもしれません。息子のヤンの頃は、花の静物画が大流行した時代らしく、実物の花は高価なので、いつでも枯れない花の絵を求めるお金持ちが多かったそうです。更に時代が下ったピーテル(父)のひ孫の時代は、もう全く世の中が変わっていたのでしょうね。
個人蔵の作品をこれだけ集めて来たのはすごいな、と思いました。一族の流れも良く分かりました。しかし、なんと言うか、「本味醂ではなく味醂風」な展覧会でした。
ピーテル・ブリューゲル(父)の作品が好き、という人には物足りないでしょう。せめて1枚でもピーテル・ブリューゲル(父)の油彩があったらね、と残念に思います。
お土産物コーナーはなかなか楽しく、ピーテル・ブリューゲル(子)の「鳥罠のある冬景色」の大判ポストカードを購入しました。
これのオリジナルを見る事が出来るのはいつかしら、と思いつつ。いつか東京の美術館にやって来るのか、あるいはベルギーに足を運ぶ事になるのかしら、と思います。