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「ロバート・キャパ / ゲルダ・タロー 二人の写真家」展 いかにして「ロバート・キャパ」は生まれたか

本日、1月26日から明日まで開催の「ロバート・キャパ / ゲルダ・タロー 二人の写真家」展に横浜美術館へ行ってきました。ずっと行こう行こうと思いつつ、最終日前日にやっと実行。テレビ番組で取り上げたり、沢木耕太郎さんの著書があったりで、すごく混んでいると聞いていたので、中々行けませんでした。
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15年くらい前に新宿の三越で「ロバート・キャパ展」という大展覧会がありまして、活動期間を3つの時期に分けて、全ての作品を展示するというものでした。私、これを見に行っていたのと、キャパは好きで、結構どこかで展覧会があるつど見に行っているので、今回、見なくても良いかしら、という思いが頭をよぎりました。しかし、三越の展覧会の第1期に当たる活動初期の部分を見そびれていたことを思い出して、今回見に行くことにいたしました。
 
今回の写真展はゲルダ・タローの写真の個展とロバート・キャパの個展の二部形式をとることで、ゲルダ・タローの作品に日本で初めて総括的に迫るものだそうです。ゲルダ・タローって ??? という方も多いのでは、と思いますが、「ロバート・キャパ」という写真家はその活動の初めの頃、ゲルダ・ポホリレとアンドレフリードマンという男女2人が作り出した架空の写真家でした。藤子不二雄みたいなものです。と言うのも、二人はユダヤ人でパリで知り合いました。異邦人であることから中々いい仕事にありつけないので、「ロバート・キャパ」という写真家を作り出し、戦場の取材に出かけます。そして、その経験から世界的に名をはせる戦場写真家になります。ゲルダ・ポホリレは名前をゲルダ・タローと改めて、独自に取材を始めます。そして戦場で26歳で亡くなります。
 
随分長いこと、ゲルダロバート・キャパの恋人だった女性として紹介されてきましたが、彼女自身も戦場写真家でした。初めてスペインへ赴く歳は、男性のフリードマンよりもむしろゲルダの方が積極的だったそうです。「ロバート・キャパ」の名を一躍有名にした「崩れ落ちる兵士」という作品も、ゲルダが撮ったのではないかという説もあります。初めの頃のゲルダは正方形に写るカメラを使用しており、フリードマンは長方形に写るライカを使っていた事から、「崩れ落ちる兵士」のサイズからゲルダの作品という説です。
 
今回の展覧会では、ゲルダ・タローの作品83点、ロバート・キャパの作品193点を一挙に見られます。ゲルダの作品は全体が写っているものが多く、対してキャパはぐっと寄って人の姿 ( 表情が分かるほど ) を撮っているものが多いのです。一緒の場所で取材して撮影したものもあり、同じシーンを別の人が撮るとこんなに違うのかということを見比べるのも面白い試みです。
 
ゲルダ・タローの写真は女性が撮影したとは思えないほど、戦場に迫っているものもあり、なんともその勇敢ぶりに感心させられます。そんな中でも女性らしいなと思わせる作品もあり、戦闘の休止の間の戦士たちの姿は仲間同士で笑いあったりしていて、辛い中でも人間というのは楽しみを見出せる生き物なんだなと感じさせます。ゲルダ・タローは1936年に既に女性戦場写真家として活躍していて、なんとも先進的な女性だったのだなと思います。その時代には賞賛されていても、時代と共に忘れられてしまった存在というのは悲しい話ですが、ゲルダフリードマンと共に作り出した「ロバート・キャパ」という存在のその後の輝かしい活躍も一因だと思います。
 
さて、「ロバート・キャパ」となったフリードマンの方ですが、こちらの活躍は世界中が知っている程。それにしても、「ロバート・キャパ」はゲルダ・タローアンドレフリードマンが作り出し、その後アンドレフリードマンが「ロバート・キャパ」という名に導かれるようにして活躍を重ねていかなければ、ありえない成功でした。最初からフリードマンが「ロバート・キャパ」だったわけではなく、彼は次第に「ロバート・キャパ」になったのだと思います。最初に立派な名前と入れ物を作り、その後でそれに見合う自分に成長していく、とでも言いましょうか。それにしても、この作戦は大成功でしたよね。ゲルダ亡き後、残されたフリードマンは最初の頃は大変だったことでしょう。「ロバート・キャパ」という凄腕の戦場写真家としての仕事をしていかなくてはならないのですから。結果として、フリードマンは磨かれて、本物の「ロバート・キャパ」になったわけですが。
 
作品数が多いので、ざっと見るだけでも2時間はかかりました。私は、以前ロバート・キャパとはカメラマンとしてもいい腕をしているが、戦場で生き延びる技は天下一品という稀有な存在だと思っていました。ロバート・キャパという写真家の作品は戦争を撮ったものの輝きが素晴らしく、平和な世界を写したものはあまり魅力がありません。戦争の最中でも人にスポットを当てて表情が分かるような、息遣いや歓声すら分かるような写真が素晴らしいと思います。
 
ゲルダ・タローロバート・キャパ、二人の写真家が写した戦争、その写真からは戦争という恐ろしくも愚かな行為が切り取られています。戦争は戦っている戦場だけではなく、戦場に行かない人々の暮らしの中にもあります。その人間の愚行の中に、人間の本性を抉り出してくるような作業を行ったのが戦場写真家だと思います。
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いつ見ても、なんだかしみじみしてしまう写真たちです。戦争、抗争といったことの愚かさ、恐ろしさを忘れない為にも、定期的に戦場写真家の仕事振りを見られる展覧会を行ってもらいたいと思います。
 
 
美術館エントランス。
  美術館のレストラン前の木蓮が花盛りです。