さて、今回の展覧会は「フランス絵画300年」ということで、17世紀から印象派、後期印象派、20世紀のピカソやマティスまで66点の展示とのこと。プーシキン美術館はロシアのモスクワにある美術館で、2012年に開館100周年を迎えたそうです。フランス絵画のコレクションが充実しているのだそうです。そのわけは、個人コレクターでフセンス絵画に見せられた人たちの存在です。彼らが、彼らの審美眼で集めたフランス絵画が沢山あるらしいのです。
展示構成は下記の通りです。
第1章 17-18世紀 古典主義、ロココ
第2章のコーナーではミレーの「薪を集める女たち」という暗~い絵が出ていまして、もっともミレーの絵は総体的に色が暗いかもしれませんが、なんとも生活の厳しさを感じさせる作品です。薪というのは拾うものかと思っていたのに、伐採されたかした木を女二人でよっこらしょと持ち運んでいるのです。しかも、斜面に見える所をです。冬に備えての農家の仕事の一つなのでしょうが、大変ですね。コローの「突風」も、暗い色調で風に木が飛ばされそうな絵です。このコーナーにはドラクロワの「難破して」やアングルの「聖杯の前の聖母」もあります。
さて、第3章。ああ、ここが今回のメインですね。人の混み方もよりすごいです。お目当てのルノワールの「ジャンヌ・サマリーの肖像」ですが、思ったより大きくありません。それにしてもあのホワホワの優しい微笑みは見る者を幸せな気分にしてくれますね。劇場の桟敷席にでも居るところなのでしょうか、姿勢が少し前かがみになつているし、ひじわついている位置が手すりか何かがあればぴったりという位置に見えます。自宅やカフェのテーブルにひじをついているのではないと思います。ホワホワの微笑みわ引き立てるバックのピンク色というのもすごいですよね。肖像画のバックには人物を際立たせるため暗い色を持って来がちだと思うのですが、ピンクです。あえて、ピンクなのでしょうね。幸福感倍増の画面の出来上がり。こんな色使い、ルノワールでもなくては出来ないよ~と思います。あっ、別の意味でゴッホならあり、です。ゴッホだと渦巻き模様まで描いちゃいます。ルノワールは「幸せの画家」などと呼ばれますが、この「ジャンヌ・サマリーの肖像」を見ると、本当に幸せな気分にしてくれるのはすごいことです。油彩なのにパステルで描いているようにも見えるのもすごいです。
このコーナーは見所満載でして、ドガのパステルで「バレエの稽古」がありました。この絵、好きだわ~。バレエの稽古をする女の子たちのロマンチック・チュチュの裾がすっと光に溶けていくような色合い。やはりドガはバレエリーナを描いた作品がよいですね。数年前、同じ横浜美術館で開催したドガ展にも、今回の作品は出ていなかったようで、私は初めて見るように思いました。色のついた紙に描かれているのか、地自体が微妙な色合いです。
「ジャンヌ・サマリーの肖像」の左隣に睡蓮で有名なモネの風景画「陽だまりのライラック」という作品があり、たわわに花を咲かせたライラックの木が描かれているのですが、これも美しくほーっとしてしまいます。しかし、ものすごく混んでいて、近くて見られなくて、木の絵なのね~と思っていたら、後にお土産コーナーでポストカードで見たところ、木の右下に女性が座っていました。ゆっくり見ないとダメですね。でも、この絵も女性の存在を確認してもしなくても美しい作品です。
ゴッホの「医師レーの肖像」のアンバランスな不思議な魅力。顔と衣服でタッチがまったく違うのは衣服はどうでもよかったのでしょうか。衣服の部分はまるで塗り絵のようなのに顔の丁寧な描き方、特に目の表情の素晴らしさ、結構厚塗りで太い筆で描いているようなのに、あの目はすごいなと思いました。しかもバックは緑色に渦巻き模様で
すよ。壁紙がそんなだったのか、ゴッホがそんなバックにしたい気分だったのか、モデルになったレー先生には受け取ってもらえなかったらしいですよ。
ゴーギャンも2枚あって、「彼女の名はヴァイルマティといった」という作品は、モデルのポーズが何だか古代エジプトのパピルスなどに描かれている人のようなポーズで個人的には受けました。それから4年後に描かれた「エイアヒ・オヒパ(働くなかれ)」では色がかなり変わり、鮮やかな黄色を拝啓に使っていても手前は落ち着いた色彩になっていて、明るく強い日差しの中で木陰に入ったような画面構成。ただの鮮やかさだけを狙っていない成熟すら感じます。ゴーギャンでも、これは好きかな。
最後の第4章は、マティスやピカソとこちらも見所満載。マティスの「カラー、アイリス、ミモザ」は大きな絵ですが、なんというか不思議な作品です。上手いのか下手なのか、ちょっと悩みます。印刷物だといい感じなんですけどね。むしろ印刷物で見た方がいいかも、と思います。実物のサイズと色っていうのもあるのかも。私としてはちょっと微妙な気分になりました。ピカソは3枚あって、それぞれが違うタッチで描かれています。「マジョルカ島の女」という淡いブルーの衣を着た女性の絵の硬質な美しさ。まるで萩尾望都さんのマンガに出てきそうです。
アンリ・ルソーの相変わらずマイペースなヘンな絵もありまして「詩人に霊感を与えるミューズ」というのですが、モデルは友人の詩人アポリネールとその恋人のマリー・ローランサンだそうです。がたいのいい男女がジャングルの中に居るような絵なのですが、ミューズの方が詩人より大きく描かれているようなのもおかしくて、やっぱりルソーよねとニヤニヤ。
シャガールの「ノクターン」は、あぁこれぞシャガール ! と思うような美しく幻想的な作品でした。色も鮮やかで、あまり大きくはないものの、美しさでは素晴らしいです。特に赤が効いていて、素敵です。昨年、シャガールの版画は沢山見たものの、やはり油彩が見たいと思っていたので調度良かったです。
などなど結構色々見せてもらいました。それでもあっという間で1時間もかからずに見終えてしまい、「えっ、もう出口 ! 」と口にしたほど。ちょっとあっさりしすぎだった感があります。混雑具合もすごかったので、どんどん見てしまったのも、そう感じさせる一因だったかもしれません。
何だか、展示方法に問題があったように感じていて、ちまちまと部屋を小分けにしているので、人が溜まってしまってより混雑している状況を生み出しているようです。なんとなく会場作りに不満が残りました。
それと、プーシキン美術館、本当はもっと色々持っているのでは ? と思っていまして、今後色々出してくるのかなとも予測できます。ちょっとサイトを調べたら、なんと浮世絵のコレクションもあるんですね。持ってますね、プーシキン美術館。定期的に日本にも作品を貸し出して欲しいですね。
割とあっさりとした展覧会ではありますが、フランス絵画300年をサラッとなぞっているので、其のあたりを知りたいという方は見ておいた方がいいのでは。何より、ルノワールの「ジャンヌ・サマリーの肖像」を見に行くだけでもよいと思います。あの微笑みは他を全部飛ばしても見る価値はありますよ。時間がなければ、第3章と4章だけでも見に行ってください。
横浜美術館エントランス。
ルノワール「ジャンヌ・サマリーの肖像」。
ドガ「バレエの稽古」。
モネ「陽だまりのライラック」。
ゴッホ「医師レーの肖像」。
ゴーギャン「エイアヒ・オヒパ」。
セザンヌ「パイプをくわえた男」。
ルソー「詩人に霊感を与えるミューズ」。