ama-ama Life

甘い生活を目指しています。

「裏切りのサーカス」

裏切りのサーカス」( TINKER TAILOR SOLDIER SPY )を見てきました。
 
あらすじは公式サイトをご参照ください。イメージ 1
私の「本の虫」の「スマイリー3部作」も良かったらご参照ください。
 
さて、私はジョン・ル・カレの「スマイリー3部作」のファンです。その一作目である「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」( TINKER,TAILOR,SOLDIER,SPY ) の映画化はとても楽しみでした。
 
当初、スマイリー役にゲイリー・オールドマンと聞いた時は、なぜ?という気はいたしましたが、この映画でのゲイリー・オールドマンはよく化けたな、という感じで、確かにそこにはスマイリーがいるのです。ただ、いささか原作よりかっこ
いいのですが。スマイリーの持ち味はさえない初老の男、その実その大きな頭に詰まっている脳みそはたいそう活発に働いているという頭脳派であるところ。ゲイリー・オールドマンというと狂気を演じさせたらこの人だよね、というくらい、持ち味はクレイジーな点だったと思うのですが、今回のスマイリーではそんな片鱗は全く見せず、ひたすらスマイリー然としていて、なるほどアカデミー主演男優賞にノミネートされたのもうなづけます。
この作品、脚色賞と作曲賞でもアカデミー賞にノミネートされています。
 
でも、恐れずに言うならば、これは大いなる失敗作ではないでしょうか。原作は、哀愁を帯びたトーンやスパイであることの厳しさと寂しさ非常さ、人であることの哀しさ、愛するということの重さ、生き続けることの意味、などなど、スパイ小説という形を取っていながら、それだけではなく人間の様々な生き様や存在についてなど考えさせられることの多い良く出来た小説です。とにかく、そういったところがイマイチ上手に描けていない。
もちろん映画なのですから、そっくり原作通りに撮れというつもりはなく、脚色するのは当たり前だとは思ってはいるのです。ただ、あまりにもお粗末なのではと言わざるを得ない出来です。
 
人間関係が複雑で、まず誰が誰で、どういう関係かを抑えていないと分かりづらい話です。入場するさい、「本作を解読するための重要機密 !!」というチラシが配られました。それには誰が何者で相関図はどうなっているかが書かれていましたが、こういうものを配ること自体、映画としてすでに破綻しているのではないでしょうか。その上、いくつかの作戦が出てくるのですが、その前後関係や関わりも分かりづらい。もっと上手に分かりやすく描くことはできなかったのでしょうか?
 
この映画は、原作を読んでいないで突然見るとまったく話が分からない映画だと思います。原作を読んでいても、「ウィッチ・クラフト・グループ」の4人は、コリン・ファースがビル・ヘイドンなのは分かったものの、誰がアレリンで誰がブランドで誰がエスタヘイスなのか分からない状態です。それくらい小説と映画では「ウィッチ・クラフト・グループ」のメンバーのイメージが違いすぎです。ついでにファースト・ネームで呼んだり、ラスト・ネームで呼んだりするので、余計ゴチャゴチャになってしまいます。
 
唯一コリン・ファースのビル・ヘイドンはイメージ通りですが、彼のキャラクターの描き方も足りなくて、そのあたりも不満が残ります。カリスマ性があって男も女も惹きつけるヘイドンの人となりを表すようなエピソードがあってもいいように思います。彼が何を信奉しているかもきちんと描いてくれないと、後々の話の運びに不具合が出てしまいます。
 
ヘイドンとジム・プリドーの関係の描き方もあやふや。どうして、ジム・プリドーが学校に居るのか、子供たちといるのか、あんなおざなりの描き方で伝わるのでしょうか? ジムの取った行動の意味も、ビル・ヘイドンとの関係性がきちんと分かるエピソードが無いと、よく判らない。お互いに目で合図するだけの描写ではなく、もっと深いつながりを示唆する描写が一つ入ると、全く違うのですが。
 
「スマイリー三部作」の核を成す、スマイリーとソ連の大物スパイ、カーラとの確執についても、もっと丁寧に描いても良かったのでは、と思います。あまりにあっさり。映画を見ただけの人は、きっと二人の関係がよく判らないことでしょう。
 
そして、この話の発端である衛星国で繰り広げられた作戦よりも、中東での作戦の話がかなりのウェイトを占めていて、リッキー・ターの話が裏を取る際のメインとなっている点が、なんだかおかしい。そこをメインにしているから、ジムとヘイドンの話が活きて来ないし、余分なシーンが多く描かれることに成ってしまい、バランスが悪すぎる。それはスマイリーとカーラの物語の力をそぐことになっていると思います。
 
そして、そんなの瑣末なことだろ、と言われそうですが、ピーター・ギラムはもっと二枚目でも良かったですね。ギラムは痩せ型長身、英仏混合の色男という設定なので、明らかにミス・キャストです。ジェリー・ウェスタビーも、なんかイメージ違う。ウェスタビーは貴族の坊ちゃんで新聞記者なんですけどね。ま、イメージというのは個人的なものなので、実際と違っても仕方ないのですが。
 
とまぁ、ダメ出しだらけではありますが、冷戦時代の東西の時代の雰囲気はよく出ていたし、イギリスらしい町並み、風景、紳士服のおしゃれなこと、とイギリス風を楽しむにはいいです。スパイものなのに派手なアクションがないのも、「スマイリー的」です。きっと実際のスパイ活動は、ひたすらもぐり、ひたすら待ち、ひたすら調べ・・・とかなり地味な作業の連続のはずですから。派手だとスパイだとばれてしまいますからね。
 
映画をきっかけに、原作を読む人が出れば、それはそれでいいかな、と思います。原作の出来、いいですからね。それこそ「ようこそ、スマイリーの世界へ ! 」です。