この度、児童文学として有名なバーネットの「秘密の花園」を読む機会があった。正直言って、これほど面白く、これほど感動的な物語世界が展開されているとは思っておらず、驚いている。
今回私が読んだのは、大人が読むことを見据えて訳されたものであるらしい。実際も小学生や中学生で読むより、長い人生を経てきた大人が読む方が心に響くものがあるだろう。
まず、最初に驚いたのが、ヒロインが登場する際の、あまりにかわいげのないヒロインぶりである。通常、子供を読者にしている作品では、ヒロインは薄幸の性格のいい子ということになっているのだが、このメアリ、やせっぼっちで不器量、無愛想、横柄で傲慢なお嬢様として登場してくる。そんな彼女が、両親を亡くし、イギリスの田舎のお屋敷に住むおじさんに引き取られることになる。イギリスのお屋敷に着いた当初のメアリはあまり、人間としての変化はないが、ある日、長い間閉ざされた庭を発見することで、物語が動いていく。
メアリはその庭を蘇らせるべく、土を耕し、種を撒き、草取りをして手入れしていく。メイドのマーサの弟の自然児ディコンが庭つくりに参加することで、庭はどんどん作られていく。やがて、いとこのコリンも加わり、彼らは一層庭つくりに夢中になって行く。庭を作っていく過程がまるで、親に見捨てられ、世間から見放された二人のわがままな孤児が人間として再生していく過程と重なる。いつしかメアリもコリンも普通の子供に成長している。それは、もちろん自然の中で過ごすことで肉体的にも健康的にもいい作用を及ぼしたからでもあるが、友人と一緒に笑うこと、鳥や動物たちと触れ合うこと、人を信用すること、自分の未来を信じることでいつの間にか自信すら身に着けて行く。
この物語は、力強く生きる喜びを歌い上げる。精神的に打ちのめされても、再生することは可能であると謳う。それは、子供たちだけではなく、最愛の妻を失って何年も失望のどん底に打ち沈んでいたコリンの父親の身の上にも起こる明るい変化である。人は何度でもやり直せる、という力強いテーマが底に流れている。