ama-ama Life

甘い生活を目指しています。

「レンブラント展」で闇の明るさを見る

本日、上野の国立西洋美術館で開催中の「レンブラント 光の探求 闇の誘惑」展に行ってきました。
 イメージ 1
レンブラントと言えば「光と影の魔術師」などと言われ「夜警」のような集団肖像画で有名なオランダ絵画の巨匠です。そのレンブラントの版画展。油彩も何点か展示されているものの、この展示会は版画をじっくり見てみましょうという展示会です。
 
版画だけでも110点。見ても見てもまだまだ版画。そして版画は比較的サイズが小さいものが多く、離れた所から見えない。来場者がお団子状態で溜まってしまい、なかなか進めず。それでもなんとかレンブラントの「光と闇の世界」と対峙して参りました。
 
版画と一口に言っても色々な手法があるのですね。その方法の特質を知り尽くして、うまい具合に使い分けているという感じです。今まで版画と言えば、エッチングならエッチング、ドライポイントならドライポイントと一種類で全画面を作成するものと思っていました。ところが、一種類だけではなくて、複数の手法を
組み合わせて、画面を構成している。組み合わせることで、質感などが、ぐっと違ってくるのです。
 
展示会場に入る前に見た番組案内的な番組では「美術愛好家の中には、むしろレンブラントの版画を好む人も多い」と、今回の展示会に多量の作品を提供しているレンブラントハイスの方 ( 多分館長さん ) が語っているほど。
 
なるほど、版画は白黒ですからね。光と闇を追求したレンブラントとしてはもってこいの表現方法と言うところでしょうか。
 
それにしても「黒い版画」とは。当時、オランダなどで、黒い版画はコレクターの間で大人気だったとかで、レンブラントの作品の他にも展示されています。「黒い版画」って、ホント、黒いのです。描きこんでいる、というかこの場合彫り込んでいる、って言うべきか。人物だって風景だって、室内だって屋外だって、夜だって平っちゃらで彫っちゃっています。題材だって宗教的なものでも、自画像も、裸婦も、肖像も、風景も、何でもござれ。肖像なんてまるでモノクロの写真のようです。
 
結局、うまい人は絵筆じゃなくてもうまいのです。よくもまあ、こんなすごい表現が出来たな、と思うような出来なんです。その線の素晴らしさにうっとり。その闇の明暗にびっくり。黒い中にも黒さの段階があり、闇の中にも光源別の明暗がある。それが見事に描かれている ( 彫られている ) のです。
 
私は、いまいち西洋絵画の中で版画って興味が無いのですが、版画も捨てたものじゃないと痛感させられたのが、昨年のブリューゲルの版画展でした。当時の絵画表現のひとつの分野として、かなり大きなボリュームを占めていたであろう版画は、こうして知ってみれば中々楽しめる手法でした。
 
そして、この版画展で、レンブラントの版画への力の入れようを見せ付けてくれるのが、摺る紙へのこだわりです。西洋紙だけのみならず、和紙や中国紙など、色々な紙を使っています。摺る紙が違うだけで、こうも見た目の印象が変わるのかと、驚かされます。紙を替えて摺った各バージョンが並んで展示されているので、おのおのお好みが分かれるかと思います。レンブラントは比較的早いうちに摺る版は和紙や中国紙を用いていたようです。そして、早い版は値も高いものだったようです。
 
和紙の使用は、この時代のオランダが日本と交流があり、和紙も日本から入ってきていたということですよね。大航海時代がオランダにもたらした富は大きかったということですね。期を同じくして公開されていたフェルメールの「地理学者」も、日本のきものを模したガウンを着ていて、当時大流行だったとのこと。世界はつながっているのですね。
 
数点展示されている油彩画では、私はまだ駆け出しだった頃のレンブラントの自画像が気に入りました。画面中央にイーゼル、左隅に若い画家の姿。光がイーゼルに当たっています。それは彼が描く絵に光があたり、隅に描かれた彼を社会の明るい場所に導いてくれることを暗示しているようです。「髭の老人」もよかった。どちらもあまり大きくない絵なのですが、気に入りました。
 
それにしても、相変わらずレンブラントは沢山の自画像があって、油彩でも版画でも残している。自己顕示欲が強い人だったのでしょうか。
 
レンブラントの人生は比較的若い時代から成功し、富を得たものの、一人目も二人目も妻を無くし、子供も無くし、晩年には破産、とまさに彼が描く絵のごとく「光と影」に彩られています。人生のよいことも悪いことも全て経験するような人生ですよね。だからこそ、自画像を描いて自分の内を覗いていたということでしょうか。闇が深いほど、光は明るくみえるもの。そしてまた逆も真なり。光も闇も全て引き受けたような人生であり画風というのがレンブラント、ということでしょうか。
 
なるほど、レンブラントの版画は一見の価値ありです。白黒だからって、つまらないなんて言わせませんよ。
 
そして、常設会場で同時開催の「奇想の自然  レンブラント以前の北方版画」を併せて見ることをお勧めいたします。なんとクラーナハボッシュばりの版画や下絵をピーテル・ブリューゲルが描いた版画などが見られます。こちらは、レンブラントの凝りに凝った彫り方の手法以前の版画です。クラーナハの「聖アントニウスの誘惑」には唖然としますよ。まるでボッシュブリューゲルか、というようなヘンな生き物が沢山出てくるのです。「クラーナハ、お前もか」という気分になり、小躍りしたくなるほど。
 
帰る頃、これから見ようという人の大行列が出来ていました。もうすぐ終わってしまうので、早めに行かれることをお勧めいたします。なかなかオランダまで見に行くのは大変ですから。